現在,このコーナーでは,法律に関する用語を説明しています。
 初心者向けとなりますので,簡潔な説明を心掛けています。

 掲載は,基本的に週3回(月・水・金)の予定ですが,その時々の都合により若干不規則になることもあります。また,いずれネタに詰まってきますと,掲載頻度が落ちるかもしれません(苦笑)。当面は大丈夫ですが……。
 なお,登場する用語は,前後で関連する場合もあれば,関連のない場合もありますので,ご了承ください。

過去の掲載分は,以下のリンク先(別W)をご覧ください。
第1回〜第50回
第51回〜第100回
第101回〜第150回
第151回〜第200回


第254回 : 「殺人罪」(12月25日付掲載)
 殺人罪は,改めて説明するまでもなく,人を殺害する犯罪です。殺人罪が成立するためには,人の死亡という結果を認識し,且つ,これを認容していること(=殺人罪の故意)が必要ですので,その認識又は認容を欠く場合には,外形的行為は同じであっても,傷害致死罪が成立しうるに止まります。
 このような認識や認容は,内心の問題であり,外部から客観的に確認することができないため,裁判などで争われる場合,その有無は,凶器の有無・性状,攻撃部位・受傷部位,攻撃回数・攻撃力,周囲の状況,性別・年齢,攻撃行為及びその前後の附随的言動,攻撃後の救助行為の有無など,諸般の事情を総合的に考慮して判断することになります。

(年内の更新は,今回で終了となります。)


第253回 : 「傷害致死罪」(12月22日付掲載)
 傷害致死罪は,傷害罪を犯し,その結果,被害者が死亡した場合に成立する犯罪です。ただし,被害者が死亡することを認識している場合には殺人罪が成立しますので,被害者の死亡という結果を認識していなかったことが必要です(なお,被害者の死亡という結果を予見することができたことが必要であるかどうかについては,考え方が分かれています。)。また,傷害と死亡の間に因果関係のあることが必要ですので,被害者が負傷後,その負傷とは全く関係のない別の原因により死亡した場合には,傷害致死罪は成立しません。
 前回の説明のとおり,傷害罪は,暴行を加える意思しか有していなかった場合にも成立します。そのため,暴行を加える意思で暴行を加えた結果,被害者が死亡した場合には,暴行→傷害罪→傷害致死罪という経過で,傷害致死罪が成立し,重い刑罰を科せられることになります。


第252回 : 「傷害罪」(12月20日付掲載)
 傷害罪にいう「傷害」の定義については,幾つかの考え方がありますが,通常,人の生理機能を害する行為のほか,外観を損ねる行為なども含まれるとされています。したがって,例えば,肉体的に負傷させることは勿論,精神的に悩ませる行為や髪の毛を切る行為などについても,傷害罪が成立することがあります。
 また,傷害罪は,当初から負傷させる意思であった場合のみならず,暴行を加える意思に止まりながら,結果的に負傷させるに至った場合にも成立します。換言すれば,傷害罪の成立に必要な故意は,傷害の故意に限られず,暴行の故意でも足ります。


第251回 : 「住居侵入罪」(12月18日付掲載)
 住居侵入罪(建造物侵入罪)は,他人の住居や建造物などに「故なく」立ち入る犯罪です。「故なく」とは,要するに,「違法に」という意味ですが,その判断の基準については,住居などの管理権者の意思を重視する考え方と,立入り行為の態様(住居などの平穏を害するものかどうか)を重視する考え方とが対立しています。もっとも,管理権者の意思に反して立ち入る行為は,通常,平穏なものとは言いがたいことが多く,逆に,平穏な立入り行為であれば,管理権者の意思に反しないことが多いと言えますので,実際には,両者の考え方の相違により結論が大きく分かれることは,さほど多くはありません。


第250回 : 「器物損壊罪」(12月15日付掲載)
 器物損壊罪は,他人の物(動物も含まれます。)を損壊(動物については傷害も含まれます。)する犯罪です。損壊とは,物理的又は社会的にみて物の効用を失わせる一切の行為を言い,物理的な毀損がこれに含まれることは勿論ですが,これに限られず,例えば,縁起物の掛け軸に「不吉」と大きく墨書きするような行為も含まれます。
 なお,「物」のうち建造物などを損壊する行為は,建造物損壊罪という犯罪が別に定められており,その重大性に鑑みて,器物損壊罪よりも刑罰が重くなっています。


第249回 : 「横領罪」(12月13日付掲載)
 横領罪は,自分の占有する他人の物を横領(勝手に処分するなどの行為を言います。)する犯罪です。横領罪は,他人の占有する物が対象となる窃盗罪や強盗罪などと異なり,既に自らの占有する物が対象になる点が特徴です。
 横領罪には,単純横領罪と,業者などが業務上占有する物を横領する業務上横領罪がありますが,いずれも,所有者から何らかの委託を受けて占有することを前提としています。これに対し,所有者からの委託に基づくことなく占有する物を横領する場合には,占有離脱物横領罪という別の犯罪が成立します。例えば,第三者の窃盗犯人が一旦盗んで放置した自転車を無断で自分の物にするような場合です。


第248回 : 「詐欺罪(3)」(12月8日付掲載)
 前回説明の要件のうち,特に問題となりやすいのは,@の欺罔行為と,Bの財産的処分行為の2点です。このうち,@の欺罔行為については,前々回の説明のとおり,どのような内容でも良いのではなく,Bの財産的処分行為を引き出すという目的のために正に向けられた内容でなければなりません(それ以外の欺罔行為がなされても,それは詐欺罪の要件としての欺罔行為にあたりません。)。
 前々回の事例に即して説明すると,甲が,店主乙に対して「近くに友人が待っているので,その友人からお金を借りてきて支払います。」と嘘を告げて,店外に出てそのまま逃走した場合は,乙は,甲に対し,飲食代金の支払いを一時猶予するという財産的な処分をなしており,甲の虚言もそのような処分を引き出すためになされたものであると言うことができます。これに対し,甲が,店主乙に対して「ちょっとトイレを借ります。」と嘘を告げて,こっそりとトイレの窓から脱出して逃走した場合は,甲と乙の間では特に代金の支払いは問題とされておらず,乙も,甲に対し,飲食代金の支払いを一時猶予する意思はなく,当然にそのような財産的な処分もしておらず,甲の虚言も,乙による財産的処分行為に引き出すためになされたものであると言うことができません。その結果,前者の場合には詐欺罪が成立しながら,後者の場合にはそれが成立しないという結論になります。

註:上記の後者の場合,被害者の意思に反して代金支払いを免れるという利益を得たとして,講学上,利益窃盗と呼ばれる犯罪行為にあたりますが,刑法上,これを処罰する規定がないため,刑法上の犯罪は成立しません(もちろん,地方の条例などにより処罰される可能性はあります。)。


第247回 : 「詐欺罪(2)」(12月6日付掲載)
 詐欺罪が成立するためには,@人を騙す行為(欺罔行為と言います。)があること,Aこれにより被害者などが勘違いをすること,B被害者などがこの勘違いに基づき財産を処分すること,Cこの処分により犯人が財産を取得するなどの利益を得ること,以上の要件を満たし,且つ,相互に因果関係のあることが必要です。例えば,初めから代金を支払う意思のない典型的な無銭飲食の事例に当てはめますと,犯人が客として代金を支払う意思がないのに飲食を注文し(=@),これにより店側は正規の代金の支払いを受けられると勘違いに陥り(=A),この勘違いに基づき犯人に対して飲食を提供し(=B),これにより犯人は飲食することができる(=C),ということになります。結果的にこれらの要件を満たしても,相互に因果関係のない場合は,未遂に終わります。例えば,上記の事例で,店側は,犯人の意図を看破したものの,憐憫の情から飲食を提供した場合には,AとBの間の因果関係が欠けるため,詐欺未遂罪が成立するに止まります。

註:上記のA及びBの要件で,被害者「など」とされているのは,(ここでは深入りしませんが)欺罔行為の相手方と被害者が常に一致するとは限らないためです。例えば,会社を相手に騙す場合,騙される相手方は個々の従業員かもしれませんが,被害者は会社であり,両者は一致しません。


第246回 : 「詐欺罪(1)」(12月4日付掲載)
 詐欺罪は,人を騙して被害者から物などを受け取る犯罪です。用語自体は日常的にも広く使用されており,特に難しさを感じさせない犯罪ですが,講学的には,実は非常に多くの論点をはらんでいます。
 例えば,どのような方法で騙した場合であっても詐欺罪が成立する,というわけではありません。具体例を挙げますと,旅先の飲食店で飲食後にお金の持ち合わせがないことに初めて気付いた甲が,食い逃げの意図を秘して,店主乙に対し,@「ちょっとトイレを借ります。」と嘘を告げて,こっそりとトイレの窓から脱出して逃走した場合と,A「近くに友人が待っているので,その友人からお金を借りてきて支払います。」と嘘を告げて,店外に出てそのまま逃走した場合をそれぞれ考えますと,後者のAの場合には詐欺罪が成立しますが,前者の@の場合には詐欺罪は成立しません。その理由については,次回以降,順次説明します。


第245回 : 「恐喝罪」(12月1日付掲載)
 恐喝罪は,暴行又は脅迫により被害者を脅して被害者から物などを受け取る犯罪です。恐喝罪の暴行又は脅迫は,その程度が被害者の反抗を抑圧するに足りるものであってはなりません(その程度に達している場合は強盗罪が成立します。)。暴行又は脅迫が被害者の反抗を抑圧するに足りる程度かどうかは,犯行場所・時間,周囲の状況,犯人の年齢・性別・人数,被害者の年齢・性別・人数,凶器の有無などの事情を総合的に考慮し,客観的に判断して決められます。


第244回 : 「強盗罪(5)」(11月29日付掲載)
 窃盗罪や強盗罪などは,他人の財産を侵害する罪であり,既遂か未遂かの区別も,財産を奪ったかどうかを基準に判断されます。したがって,例えば,暴行により家人の反抗を抑圧の上,室内を物色したものの,めぼしい財産がないため,結局,何も盗らなかった場合は,強盗の未遂罪となります。
 これに対し,強盗致傷罪や強盗致死罪は,他人の財産を侵害する罪であると同時に,むしろそれよりも強く,他人の身体や生命を侵害する罪でもあります。そのため,既遂か未遂かの区別は,財産を奪ったかどうかではなく,負傷や死亡の結果が発生したかどうかを基準に判断されます。したがって,上記の例で,家人が負傷してれば,強盗致傷罪の既遂となり,何も盗らなかった点はこれを左右しません。


第243回 : 「強盗罪(4)」(11月27日付掲載)
 前回の説明のとおり,強盗犯人が故意又は過失により,被害者を負傷させたり,死亡させたりすると,強盗致傷罪又は強盗致死罪として(非常に)重い刑罰が科されます。
 しかも,これらの負傷や死亡の結果は,厳密に反抗抑圧の手段としてなされた暴行又は脅迫から生じた場合に限られず,強盗の犯行の機会に生じたものであれば足りるとされています(ただし,学説上は異なる考え方もあります。)。したがって,例えば,強盗犯人が物色中に,誤って,寝ていた赤ん坊を踏み付けて負傷させたような場合,負傷の結果は,反抗抑圧の手段としてなされた暴行から生じたものとは言えないですが,なお強盗致傷罪が成立します。この考え方も,強盗犯人に対して厳しく臨むことによって,強盗の犯行から被害者を保護しようという目的を達成するためのものです。


第242回 : 「強盗罪(3)」(11月24日付掲載)
 強盗罪は,暴行又は脅迫を手段とし,その程度も,被害者の反抗を抑圧するに足りるものという,強い態様が予定されています。そのため,その暴行又は脅迫の結果,被害者の生命や身体の安全が害される危険性が非常に高くなります。
 そこで,刑法は,強盗犯人が被害者の生命や身体の安全を害した場合には重い刑罰を科すことによって,その犯罪の発生を未然に食い止めようとしています。すなわち,まず,強盗犯人が被害者を負傷させた場合には,強盗致傷罪として6年以上の懲役刑が科されます。さらに,強盗犯人が被害者を死亡させた場合には,刑法上の犯罪の中では非常に重く,強盗致死罪として死刑又は無期懲役刑が科されます。なお,これらの負傷や死亡の結果は,過失によるか故意によるかを問いません。


第241回 : 「強盗罪(2)」(11月22日付掲載)
 前回,強盗罪が成立するための暴行又は脅迫は窃盗の手段としてなされる必要があると説明しましたが,刑法上,その例外となる特殊な強盗罪が1つあります。それは,事後強盗罪です。事後強盗罪は,窃盗罪の犯人が,犯行の機会に,逮捕を免れるためか,盗んだ物を取り戻されることを防ぐためか,または証拠を隠滅するために,暴行又は脅迫を加えた場合に成立する犯罪で,通常の強盗罪に準じて処遇されます。
 この事後強盗罪に似た犯罪として,いわゆる居直り強盗と呼ばれる強盗罪があります。居直り強盗は,当初窃盗の目的で犯行に着手した犯人が,被害者に発見されるなどしたため,居直って,暴行又は脅迫を加えて強盗犯人に化ける場合を言います。両者は,窃盗犯人が暴行又は脅迫を加える点ては同一ですが,反面,事後強盗罪の場合には,上記の3つの目的のいずれか1つ又は複数の目的のために暴行又は脅迫が加えられるのに対し,居直り強盗の場合には,あくまで(当初の目的である)物を奪うという目的のために暴行又は脅迫が加えられる点で異なります(なお,居直り強盗は,法律用語ではなく世俗用語で,法律上は通常の強盗罪の一類型にすぎません。)。


第240回 : 「強盗罪(1)」(11月20日付掲載)
 強盗罪は,ごく大雑把には,『窃盗罪+暴行又は脅迫』ですが,もとより,どのような内容の暴行や脅迫でもよいわけではありません。
 まず,強盗罪が成立するための暴行又は脅迫は,相手方(被害者)の反抗(抵抗)を抑圧するに足りる程度のものでなければならず,たとえ暴行又は脅迫がなされてもその程度に達しない場合は,強盗罪は成立せず,恐喝罪の問題などとして処理されます。次に,強盗罪が成立するための暴行又は脅迫は,物を奪うという動機のためになされなければならず,例えば,暴行又は脅迫の後になって初めて物を奪ってやろうと考えるに至り,これを実行しても,原則として強盗罪は成立しません(暴行罪又は脅迫罪と窃盗罪が成立します。)。換言すれば,強盗罪が成立するための暴行又は脅迫は,窃盗の手段としてなされる必要があります。


第239回 : 「窃盗罪(3)」(11月17日付掲載)
 人が物を盗む場合,それは,その物によって何らかの経済的利益を得ようという動機に基づくことが通常です。それでは,(現実には滅多にありませんが)初めから毀損目的で盗んだ場合に窃盗罪が成立するでしょうか。
 裁判例では,上記のような場合,窃盗罪は成立せず,器物損壊罪などの問題として処理されます。これは,窃盗罪が成立するために,目的物の経済的用法に従って利用または処分する意思(正確には,所有者として振る舞う意思も必要です。)が要件になると考えられているためです。講学上,この意思のことを不法領得の意思と言います。ただし,学説上は,これと異なる考え方もあります。


第238回 : 「窃盗罪(2)」(11月15日付掲載)
 前回の説明のとおり,窃盗罪が第一次的に保護すべき法的利益が,所有権や賃借権などの権利か,それとも占有(所持)それ自体かは,古くから争いがあり,前者であるとする考え方を本権説,後者であるとする考え方を占有説(所持説)と言います。もっとも,占有説も,所有権や賃借権などの権利の保護を否定するものでは全くなく,これらを十分に保護するためにも,まずは占有それ自体を保護すべきであるという考え方です。
 実務は,通常,占有説に基づいて処理されています。この占有説を形式的に貫けば,窃盗犯人から別の窃盗犯人が更に奪い取る場合にも,窃盗罪が成立しうることになります。


第237回 : 「窃盗罪(1)」(11月13日付掲載)
 窃盗罪は,他人の意思に反してその占有する財物を取得する犯罪です。窃盗罪は,他人の意思に反するという点で,不本意とはいえその意思に基づいて取得する詐欺罪や恐喝罪と区別されます。また,窃盗罪は通常暴行または強迫を手段とするものではなく,これらを手段とするときは,強盗罪や恐喝罪の問題ともなります。
 ところで,人がある物を占有(所持)している場合,それは,所有権や賃借権などの一定の権利に基づくことが通常ですが,窃盗罪によって第一次的に保護されるべき法的利益が,所有権や賃借権などの権利か,それとも占有(所持)それ自体かは,古くから争いがあります。このことは,財物の所有者や賃借権者などがこれを占有している通常の場合には,特に問題となりませんが,例えば,窃盗犯人から別の窃盗犯人が更に奪い取るような場合に窃盗罪が成立するかというかたちで問題となります。次回補足説明の予定です。


第236回 : 「錯誤(6)」(11月10日付掲載)
 前回までは事実の錯誤でしたが,これに対し,法律の錯誤は,ある行為が法律上本来許されていないのにこれが許されていると誤解した場合を言います。この場合,行為者は,自分の行為が違法であるという認識を欠いていますので,法律の錯誤の問題は,結局,違法性の意識が犯罪(故意犯)の成否にどう関わるかという問題に還元されます。
 この問題については,学説上,議論が非常に錯綜しています。大別すると,違法性の意識は犯罪の成立要件ではないという考え方,違法性の意識そのものではなく,違法性を意識する可能性のあることが犯罪の成立要件であるという考え方,違法性の意識そのものが犯罪の成立要件であるという考え方などがありますが,ここでは,この程度の指摘に止めたいと思います。


第235回 : 「錯誤(5)」(11月8日付掲載)
 前々回に,抽象的事実の錯誤の場合,発生した結果に対応する犯罪(故意犯)は「原則として」成立しないと説明しましたが,これには,例外があります。それは,犯人の認識していた犯罪事実と結果として発生した犯罪事実との間に,重なり合う部分があるときです。例えば,窃盗罪と強盗罪を比べますと,強盗罪は大雑把には「窃盗罪+暴行・強迫」ですので,両罪は窃盗罪の範囲で重なり合うと言うことができます。同様に,傷害致死罪と殺人罪では,傷害致死罪の範囲で重なり合います。したがって,前者の例では窃盗罪の限度で,後者の例では傷害致死罪の限度で,それぞれ犯罪(故意犯)が成立することになります。
 このことは,犯人が一人の単独犯では問題になりませんが,共犯が登場する場合には,ときとして問題になります。例えば,甲が乙に対して窃盗をそそのかしたところ,乙が強盗罪を犯した場合があります。この場合,甲の認識=窃盗罪の教唆,発生した結果=強盗罪の教唆ですので,抽象的事実の錯誤の問題ですが,上記のとおり,窃盗罪と強盗罪は窃盗罪の範囲で重なり合いますので,結局,甲には,窃盗罪の教唆犯が成立します。


第234回 : 「錯誤(4)」(11月6日付掲載)
 具体的事実の錯誤の発展版(?)として,例えば,甲を狙って発砲したら,弾丸が甲に命中して貫通し,たまたま後方にいた乙にも命中し,甲及び乙ともに死亡したような場合があります。このような場合に,どのような犯罪が成立するかについては,学説上争いがあり,甲に対する殺人罪及び乙に対する殺人罪が成立するという考え方と,甲に対する殺人罪及び乙に対する過失致死罪が成立するという考え方があります。裁判例は,前者の考え方に依っています。
 後者の考え方は,1人の死亡しか認識していない犯人に,2人に対する殺人罪の成立を認めることはできないという前提に立っていますが,この立場によると,上記の例で,甲が死亡し,乙が負傷に止まった場合は,甲に対する殺人罪及び乙に対する過失致傷罪が成立し,逆に,甲が負傷に止まり,乙が死亡した場合は,甲に対する過失致傷罪及び乙に対する殺人罪が成立するとされており,誰が死亡するかという結果の偶然によって成立する犯罪が大きく左右される点において,論理性に欠けると非難されています。


第233回 : 「錯誤(3)」(11月3日付掲載)
 具体的事実の錯誤がある場合,結論として,発生した結果に対応する犯罪(故意犯)が成立します。前回までの例の,甲だと思って発砲したら別人の乙であった場合,乙に対する殺人罪が成立します。これに対し,抽象的事実の錯誤の場合,結論として,発生した結果に対応する犯罪(故意犯)は原則として成立しません。前回までの例の,熊だと思って発砲したら人であった場合,殺人罪は成立しません(ただし,間違えたことにつき過失があれば,過失致死罪は成立します。)。
 このように,両者で結論が異なる理由は,発生した予期せぬ結果に対する刑法上の責任を問いうるだけの認識を犯人が有しているかどうかに違いがあるためです。すなわち,甲だと思って発砲したら別人の乙であった場合,犯人は,甲という「人」を殺害するという認識を有しています。結果的には,別人の乙が死亡していますが,「人」を殺害したことには変わりありません。そして,刑法は,甲又は乙という特定の人物の殺害を禁止しているのではなく,広く「人」の殺害を禁止しているのであって,それが甲であるか乙であるかは,刑法の立場からは有意な相違ではありません。そのため,甲という「人」の殺害を認識して,乙という「人」の殺害という結果を発生させた以上,刑法上は,人違いの点を無視して,殺人罪の責任を問うことができます。これに対し,熊だと思って発砲したら人であった場合,犯人は,およそ「人」を殺害するという認識を有していませんので,上記の論法は最早当てはまりません。そのため,「人」の殺害という結果について,殺人罪の責任を問うことはできないのです。
 なお,以上の結論は,裁判例及び通説である考え方(これを法定的符合説と言います。)に基づくものです。学説上は,これと異なる考え方もあります。


第232回 : 「錯誤(2)」(11月1日付掲載)
 事実の錯誤は,前回の説明のとおり,事実関係について,行為者の認識と(客観的な)結果との間に不一致がある場合を言います。
 事実の錯誤は,幾つかの基準によって分類可能ですが,最も重要な分類は,具体的事実の錯誤と抽象的事実の錯誤の分類です。具体的事実の錯誤は,錯誤が同じ犯罪類型の中で発生する場合を言います。例えば,前回の例の,甲だと思って発砲したら別人の乙であった場合は,行為者の認識=甲に対する殺人罪,結果=乙に対する殺人罪ですので,両者とも,殺人罪という同じ犯罪類型の中の問題です。したがって,この錯誤は具体的事実の錯誤に当たります。これに対し,抽象的事実の錯誤は,錯誤が異なる犯罪類型にまたがる場合を言います。例えば,前回の例の,熊だと思って発砲したら人であった場合は,行為者の認識=無罪(あるいは器物損壊罪),結果=殺人罪ですので,両者は,異なる犯罪類型にまたがる問題です。したがって,この錯誤は抽象的事実の錯誤に当たります。
 この分類が重要である理由は,次回の説明のとおり,両者で犯罪の正否に対する影響が大きく異なるからです。


第231回 : 「錯誤(1)」(10月30日付掲載)
 行為者の認識と(客観的な)結果との不一致を錯誤と言います。多少大雑把に言えば,要するに勘違いです。錯誤は,大別すれば,熊だと思って発砲したら人であった場合や,甲だと思って発砲したら別人の乙であった場合などのように,事実関係に関する場合と,ある行為が法律上本来許されていないのにこれが許されていると思った場合などのように,法的評価に関する場合の2つがあり,前者を事実の錯誤,後者を法律の錯誤と言います。
 刑法上,錯誤が問題とされるのは,通常,犯人に事実の錯誤や法律の錯誤があるときに犯罪の正否がどうなるかという点にあります。次回以降,順次説明予定です。


第230回 : 「予備」(10月27日付掲載)
 実行行為に至る前の犯罪準備行為を予備と言います。例えば,殺人罪であれば,犯行に使用する凶器を準備する行為などが挙げられます。
 刑法上,予備が処罰されるのは,内乱罪や殺人罪,強盗罪などの重大な犯罪に限られ,それ以外の犯罪については,たとえ予備行為がなされても,刑法上処罰されません(ただし,軽犯罪法などの特別法に触れることはあります。)。


第229回 : 「未遂(2)」(10月25日付掲載)
 前回の説明のとおり,未遂には障害未遂と中止未遂があります。単に「未遂」という用語が使われる場合は,障害未遂を意味するのが通例です。中止未遂とは,犯人が望めば,実行行為を完了し,結果を発生させることが可能であったにもかかわらず,犯人自身の意思により,これを止まり,又は結果の発生を阻止した場合を言います。逆に,これ以外の原因による未遂が障害未遂となります(ただし,障害未遂と中止未遂の区別基準については,学説上,争いがあります。)。例えば,殺人罪であれば,実行行為の途中で自己の非を悟ってこれを思いとどまった場合や,被害者を救護して死亡という結果の発生をくい止めた場合などが中止未遂となります。
 中止未遂の最大の特徴は,刑罰が必ず減刑又は免除される点にあります。これに対し,障害未遂は,裁判所が必要であると認めたときに限り,刑罰が減刑又は免除されるにすぎません。中止未遂の制度は,必要的減刑又は免除という特典を与えることにより,犯行を思いとどまらせ,犯罪の発生を抑止しようという政策的な側面があるとも言われています。


第228回 : 「未遂(1)」(10月23日付掲載)
 犯罪の実行行為に着手したが,まだこれを完了していない場合,または,犯罪の実行行為に着手してこれを完了したが,まだ結果が発生していない場合を未遂と言います(正確には,前者を着手未遂,後者を実行未遂と言います。)。例えば,日本刀で被害者を殺害しようと考え,被害者に向かってこれを振りかぶった段階(着手未遂)や,これで被害者の胸を斬りつけて重傷を負わせたものの,まだ死亡するに至っていない段階(実行未遂)です。
 未遂は,未遂の段階に止まっている(または,止まった)原因によって,障害未遂と中止未遂に分かれます。次回説明の予定です。


第227回 : 「不作為犯(3)」(10月20日付掲載)
 犯罪の発生に寄与した不作為の全てが,当然に不真正不作為犯として処罰の対象になるわけではありません。
 例えば,子供が誤って池の深みに落ち,溺れかけている状況下で,泳ぎの得意な父親,泳ぎの全く駄目な母親,たまたまその場を通りかかった第三者が,誰も子供を助けることをせず,その結果,子供が溺死した場合,仮に上記3名に子供が死んでも構わないという気持ちがあったとしても,不真正不作為犯としての殺人罪として処罰される可能性があるのは,父親に限られます。すなわち,不真正不作為犯が成立するためには,通常,一定の行為をなすべき法律上の作為義務が必要ですし,また,その作為が可能且つ容易であることも必要とされています。泳ぎの全く駄目な母親については,作為可能性(容易性)が否定され,また,第三者については,道義上の問題はさておき,子供を助けなければならないという法律上の作為義務が否定されるため,子供を助けないという不作為は,いずれも殺人罪にあたる余地がないのです。


第226回 : 「不作為犯(2)」(10月18日付掲載)
 前回の説明のとおり,作為犯,例えば,殺人罪であれば,刃物で刺す,拳銃で撃つなど一定の行為をすることを犯罪内容として予定しています。しかし,人の死亡という結果は,このような作為によってのみならず,乳幼児に対して食事を与えないというような不作為によっても,同じく実現することが可能です。このように,本来は作為を内容とする犯罪が不作為によって実現される場合を不真正不作為犯と言います。
 不真正不作為犯は,刑法などの法律により明瞭に定められた犯罪類型ではなく,裁判例や学説により承認されている犯罪です。


第225回 : 「不作為犯(1)」(10月16日付掲載)
 一定の行為をすること(=作為)を内容とする犯罪を作為犯と言い,これに対し,一定の行為をしないこと(=不作為)を内容とする犯罪を不作為犯と言います。窃盗罪,傷害罪,殺人罪など,刑法上の犯罪のほとんど大多数は作為犯ですが,不作為犯の例としては,不退去罪などがあります。
 不作為犯には2種類あります。1つは,犯罪内容として初めから不作為が予定されている場合で,もう1つは,犯罪内容としては本来作為が予定されていながら,これを不作為によって実現する場合です。前者を真正不作為犯と言い,後者を不真正不作為犯と言います。後者の不真正不作為犯については,次回に補足説明の予定です。


第224回 : 「身分犯」(10月13日付掲載)
 一定の身分を有することが要件の一部をなしている犯罪を身分犯と言います。身分犯には2種類あり,1つは一定の身分があることによって初めて成立する犯罪で,もう1つは一定の身分があることによって刑罰の程度が変わる犯罪です。前者を真正身分犯と言い,後者を不真正身分犯と言います。真正身分犯の例としては賄賂罪(収賄罪)であり,不真正身分犯の例としては横領罪(通常人ですと単純横領罪ですが,業者ですと業務上横領罪となり刑罰が重くなります。)です。


第223回 : 「共同正犯(2)」(10月11日付掲載)
 共同正犯には,2種類の形態があります。1つは,関与者の全員が犯罪の全部又は一部を直接実行する場合で,もう1つは,関与者の一部が犯罪の計画や実行指揮等には関与するものの犯罪の実行そのものには関与しない場合です。講学上,前者を実行共同正犯と言い,後者を共謀共同正犯と言います。
 刑法の予定する典型的な共同正犯は,実行共同正犯です。これに対し,共謀共同正犯は,学説上,昔から,これを認めるべきかどうかにつき激しい争いがあり,かつては,これを認めない否定説が通説でしたが,昨今は,これを認める肯定説が主流です(裁判例は,古くから,一貫して肯定しています。)。なお,否定説も,犯罪の計画や実行指揮等に関与した者を当然に無罪とするのではなく,その関与の程度や内容等に応じ,教唆犯や幇助犯として処罰することを予定しています。


第222回 : 「共同正犯(1)」(10月9日付掲載)
 共同正犯とは,二人以上の者が共同して犯罪を行う犯行形態のことを言います。共同正犯は,自ら犯罪行為を行うという正犯的側面と,互いに相手方の犯罪行為を手助けするという共犯的側面を併有しています。
 共同正犯の最大の特徴は,犯罪の一部を分担したにすぎない者も,結果の全部につき責任を負う点にあります。例えば,甲と乙が同じ被害者に向けて1発ずつ発砲し,そのうちの1発のみが被害者に命中して被害者が死亡したものの,甲又は乙のいずれの発砲した弾丸が命中したのか不明である場合を想定します。仮に,甲と乙が互いに関係がなく,たまたま同時に発砲したにすぎないのであれば,甲も乙も,殺人未遂罪の責任を負うに止まります。これは,甲又は乙のいずれの発砲した弾丸が命中したのか不明である以上,甲の発砲行為と被害者死亡という結果との間の因果関係が肯定できず,乙についても同様のためです。これに対し,甲及び乙が共同正犯であれば,甲も乙も,殺人既遂罪の責任を負います。すなわち,実際には甲又は乙のいずれか一方の発砲行為は,被害者の死亡という結果とは無縁のはずなのですが,共同正犯である以上,甲も乙も,被害者の死亡という結果の全部につき等しく責任を問われるのです。


第221回 : 「正犯・共犯」(10月6日付掲載)
 犯罪行為を自ら行う者を正犯と言い,これに対し,他人の犯罪行為に加担する者を共犯と言います。共犯には,加担の形態・方法に応じて,教唆犯と幇助犯(従犯とも言います。)があり,前者は,他人をそそのかして犯罪の実行を決意させる者を言い,後者は,他人の犯罪行為を手助けする者を言います。幇助犯の例としては,窃盗犯人に対し,合い鍵を渡したり,犯行中の見張りをしたりする場合があります。
 なお,正犯の特殊な形態として,次回説明予定の共同正犯があります。


第220回 : 「責任」(10月4日付掲載)
 第211回の説明のとおり,犯罪が成立するための最後の要件として,構成要件に該当する違法な行為をなした行為者に責任があることが必要です。
 この責任は,刑法により,14歳未満の者については一律に否定されています。逆に言えば,14歳以上の者については,特別な理由のない限り,この責任の存在が肯定されます。この特別な理由としては,病気や薬物の影響などの理由により,物事の判断能力又は行動能力が欠けている場合(心神喪失)や,これらの能力が著しく減退している場合(心神耗弱)があります。ただし,前者の心神喪失の場合には,犯罪は成立しませんが,後者の心神耗弱の場合には,犯罪自体は成立し,刑罰の減軽理由になるにすぎません。


第219回 : 「違法性(3)」(10月2日付掲載)
 正当防衛や緊急避難と類似の事情として,自救行為と呼ばれるものがあります。これは,自己の権利や利益を既に侵害された(現に侵害され,又は侵害が切迫している場合は,正当防衛や緊急避難の問題です。)被害者が,これを回復するためにとる事後的な行為のことを言い,例えば,ひったくりの被害にあった被害者が,犯人を一度見失った後,たまたま別の場所で犯人を見つけたため,その所持していた被害品を奪い返すような場合です。
 自救行為は,正当防衛や緊急避難と異なり,これを直接定める法律上の規定がありません。また,自救行為をたやすく許容すると,自救行為に名を借りた犯罪が横行する危険があり,かえって社会の安定を乱す結果にもなりかねません。そのためもあって,裁判例及び学説ともに,一般的には,違法性を否定する事情としての自救行為を認めていません。


第218回 : 「違法性(2)」(9月29日付掲載)
 正当防衛や緊急避難は,自分又は他人の権利や利益が現に侵害され,又は侵害が切迫している場合に,これを防衛・回避するためにとった行為が,構成要件に該当する場合に,その違法性を否定する事情です。正当防衛は,防衛・回避のためにとった行為が侵害者に向けられるのに対し,緊急避難は,その行為が侵害者とは無関係の第三者に向けられる点で,両者は本質的に異なります。例えば,深夜暴漢に襲われそうになったため,逆に殴り返して負傷させた場合は,傷害罪の構成要件に該当しますが,正当防衛により違法性が否定される(傷害罪の被害者=侵害者)可能性があり,一方で,深夜暴漢に襲われそうになったため,付近の民家の門扉を壊して居宅内に避難した場合は,器物損壊罪の構成要件に該当しますが,緊急避難により違法性が否定される(器物損壊罪の被害者≠侵害者)可能性があります。
 比喩的に言えば,正当防衛は,『不正対正』の場面であり,侵害者が正当防衛行為によって被害を受けても,自業自得的な点があるのに対し,緊急避難は,『正対正』の場面であり,緊急避難行為によって被害を受ける第三者は元来これを甘受すべきいわれはありません。そのため,正当防衛に比べ,緊急避難の要件は遙かに厳しいものになっています。


第217回 : 「違法性(1)」(9月27日付掲載)
 第211回の説明のとおり,犯罪が成立するためには,構成要件に該当する行為が違法であることが必要です。もっとも,構成要件は社会的にみて非難される行為を類型化したものですので,構成要件に該当する行為は,特別の理由のない限り,違法であると推認されます。
 この特別の理由としては,通常,正当防衛や緊急避難,法令行為や正当業務行為などが挙げられます。このうち,前二者については,次回に補足説明します(なお,法令行為の例としては,警察官による拳銃の所持,正当業務行為の例としてはボクシングなどのスポーツ行為があります。)。


第216回 : 「構成要件(5)」(9月25日付掲載)
 構成要件に該当するためには,行為者の主観として,故意犯にあっては故意が,過失犯にあっては過失がそれぞれ必要になります。このうち,故意とは,犯罪の結果の発生に対する認識を意味し,結果の発生を積極的に望む態度が含まれることはもちろんですが,結果が発生してもやむを得ないという消極的な態度も含まれます。殺人罪であれば,被害者の死亡を望んで犯行に及んだ場合はもちろん,被害者が死亡してもやむを得ないと考えて犯行に及んだ場合も,いずれも殺人罪の故意が肯定されます。
 故意の有無や内容によって,客観的には同じ犯罪行為であっても,該当する構成要件(=成立する犯罪)は異なってきます。すなわち,例えば,被害者を刃物で刺して死亡させた場合,行為者において,被害者の死亡という結果の発生に対する認識があれば,殺人罪が成立しますが,被害者の負傷という限度でしか結果の発生に対する認識がなければ,傷害致死罪が成立するに止まります。さらに,被害者の死亡や負傷に対する認識が一切なく,誤って刺してしまった場合には,過失致死罪が成立するに止まります。


第215回 : 「構成要件(4)」(9月22日付掲載)
 因果関係が認められるかどうかという問題で,良く取り上げられる例は,負傷(≠致命傷)させた被害者が搬送先の病院のミスで死亡した場合にどうなるのかという事例です。この場合,傷害行為と死亡の結果との間の因果関係を肯定すれば,傷害致死罪が成立し,反面,これを否定すれば,傷害罪が成立するに止まります。
 また,甲と乙が全く偶然にも被害者にそれぞれ致死量の毒を同時に飲ませた場合はどうなるでしょうか。この場合,「その行為がなければ,その結果が発生しなかったであろう。」という条件関係の公式を機械的に当てはめますと,甲の行為がなくても(乙の行為によって)死亡の結果は発生し,一方,乙の行為がなくても同様であり,結局,甲の行為も乙の行為も,死亡の結果との間に因果関係がなく,殺人未遂罪が成立するに止まると考える余地がありますが,この結論が常識に反することは明らかですので,その説明に一考を要します。


第214回 : 「構成要件(3)」(9月20日付掲載)
 犯罪の実行行為があっても,その行為と発生した結果との間に因果関係がないと,既遂にはならず,せいぜい未遂罪に止まります。この因果関係の有無をどのような基準で判断するかは,考え方が分かれていますが,一般的には,「その行為がなければ,その結果が発生しなかったであろう。」という関係(これを条件関係と言います。)の存在を前提に,さらに「その行為からその結果が発生することが,社会的常識に照らして通常相当である。」と言える場合に,因果関係が肯定されると考えられています(これを相当因果関係説と言います。)。
 ただ,次回説明予定ですが,なかには,上記の考え方を当てはめても微妙な事例や,そのまま当てはめることが不適当な事例も出てきます。


第213回 : 「構成要件(2)」(9月18日付掲載)
 前回の説明のとおり,殺人罪の構成要件に該当するためには,その要件の1つとして,殺害という行為が必要です。このように,犯罪の構成要件に該当する行為のことを実行行為と言います。
 また,実行行為の全部又は一部を始めることを実行の着手と言います。例えば,窃盗罪であれば,いわゆる物色行為を初めて時点で,通常,実行の着手があると考えられています。実行の着手があると,以後は,少なくとも未遂罪が成立し,さらに犯罪の結果が発生すれば,既遂罪となります。すなわち,実行の着手の有無は,未遂罪が成立するかどうかの分水嶺となります。


第212回 : 「構成要件(1)」(9月15日付掲載)
 前回の説明のとおり,犯罪が成立するためには,まず,その犯罪の構成要件に該当しなければなりません。例えば,殺人罪の構成要件は,「人を殺した者は死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する。」と定められていますので,「人を殺した(者)」という要件に該当する必要があります。この要件から,まず,@殺害という行為と,A(被害者の)死亡という結果が最低限必要となります。これに加え,B行為と結果との間に因果関係も必要です。そして,最後に,これらの行為,結果及び因果関係を行為者が認識していること,すなわち,C故意が必要です。結局,殺人罪の構成要件に該当するためには,これらの4つの要件を全て満たすことが必要となります。
 ここでは,殺人罪を例に取り上げましたが,他の犯罪でも,基本的な考え方は同一です。


第211回 : 「犯罪成立要件」(9月13日付掲載)
 一般に,犯罪が成立するためには,原則として,3つの要件,すなわち,@成立が問題とされる犯罪の構成要件に該当すること,A当該行為が違法であること,B当該行為者に責任があることをそれぞれ満たすことが必要とされています。
 このうち,@の構成要件とは,窃盗罪や殺人罪などのかたちで類型化された行為を言います。この構成要件は,社会的にみて非難される行為を類型化したものでもありますので,構成要件に該当する行為は,通常,Aの違法性の要件も同時に満たします(例外は,正当防衛が成立する場合などです。)。最後に,Bの責任は,14歳以上であれば,原則として,誰でも有するとされています(例外は,何らかの理由により心神喪失状態にある場合などです。)。
 結局,実際上は,当該行為が成立の問題とされるべき犯罪の構成要件に該当するかどうかが最も問題であり,ただ例外的な事情のある場合にのみ,違法性や責任の要件も別途問題とされることになります。


第210回 : 「遺産分割(6)−遺留分」(9月11日付掲載)
 前回の説明のとおり,被相続人は,遺言によって,原則として,自己の財産の承継(相続)に関して自由に取り決めることができます。この原則によれば,全ての財産を一部の相続人に相続させる内容の遺言をすることもできます。しかしながら一方で,相続人が被相続人の財産の相続につきある程度期待することも無理からぬ面があり,その期待を一定限度で保護する必要もあります。そこで,民法は,一定範囲の相続人に,遺言によっても侵害できない最低限度の相続分の保障を定めています。この最低限度の相続分が遺留分です。
 遺留分が認められている相続人は配偶者,子供及び父母で,兄弟姉妹には遺留分が認められていません。例えば,相続人が配偶者及び子供2名の計3名の場合,相続分は,配偶者=2分の1,子供=各自4分の1ですが,遺留分は,その更に2分の1,すなわち,配偶者=4分の1,子供=各自8分の1となります。
 なお,遺留分を侵害する内容の遺言も,当然に無効ではなく,侵害された相続人がこれを甘受すれば,遺言は依然として有効です。一方で,遺留分を侵害された相続人が,自己の遺留分を回復・確保したい場合には,一定期間内に,裁判で又は裁判外で,遺留分減殺請求という請求をする必要があります。

(※今回で民法編は終了です。次回からは刑法編です。)


第209回 : 「遺産分割(5)−遺言」(9月8日付掲載)
 遺言は,遺産分割プロパーの問題ではありませんが,実務上,最も問題として登場しやすいのは,やはり遺産相続の場面です。
 被相続人は,遺言によって,原則として,自己の財産の承継(相続)に関して自由に取り決めることができます(その例外は,後日説明予定の遺留分です。)。被相続人は,生前,もとより自己の財産を自由に処分することができますが,遺言は,これをいわば死後の処分にまで一定限度で拡張するものです。遺言があっても,相続人全員が合意すれば,これと異なる内容で遺産分割をすることは可能ですが,協議が整わず,家庭裁判所に対して遺産分割の審判の申立てがなされれば,裁判所は,遺言が無効であるなどの事情のない限り,遺言の内容に従って分割内容を検討判断することになります。


第208回 : 「遺産分割(4)−寄与分」(9月6日付掲載)
 相続人の一部が,被相続人の生前に,相続財産の増殖や維持(減少防止)のために特別な貢献をした場合,その貢献の事実が遺産分割にあたって考慮されることがあります。このような貢献のことを寄与分と言います。実務上,よく登場する寄与分の例としては,家業に従事することにより相続財産を増殖させた場合,被相続人に資金的援助をすることにより相続財産の減少を免れしめた場合,病床の被相続人の療養看護をすることにより相続財産の減少を免れしめた場合などがあります。ただし,寄与分として認められるためには,「特別な」貢献でなければならず,親族であることから通常当然期待される程度の貢献では足りません。寄与分は,実務上,相続人からしばしば主張され,また紛議の種になることが多く,寄与分を認めてもらいたい相続人は,最終的には,家庭裁判所に対し,寄与分を定める審判を申し立てる必要があります。
 なお,例えば,相続財産が5000万円で,相続人A,B,Cの3名(各自の相続分=3分の1)のうちAのみに1000万円の寄与分が認められる場合,各人の具体的な相続額は,次のとおり調整されます。
A=(5000万円−1000万円)÷3+1000万円=2333万3333円
B,C=(5000万円−1000万円)÷3=1333万3333円


第207回 : 「遺産分割(3)−特別受益」(9月4日付掲載)
 相続人の一部が,被相続人の生前に不動産などの贈与を受けていたり,あるいは,被相続人の遺言により不動産などの贈与を受けた場合,贈与を受けたことによる利得の事実が遺産分割にあたって考慮されることがあります。このような利得のことを特別受益と言います。不動産の贈与以外に,被相続人からの高額の金銭的援助なども,特別受益になることがありますが,反面,贈与や利得の全てが特別受益になるわけでもありません。
 なお,例えば,相続財産が5000万円で,相続人A,B,Cの3名(各自の相続分=3分の1)のうちAのみが特別受益に当たる1000万円の贈与を受けている場合,各人の具体的な相続額は,次のとおり調整されます。
A=(5000万円+1000万円)÷3−1000万円=1000万円
B,C=(5000万円+1000万円)÷3=2000万円


第206回 : 「遺産分割(2)」(9月1日付掲載)
 遺産分割にあたっては,相続人各人の相続分が1つの指標となりますが,当事者の協議が整う限り,これに拘束されるものではなく,極端には,具体的な取得額が全く零円の相続人がいても,遺産分割は有効です。
 一方で,遺産分割,特に家庭裁判所の審判による遺産分割では,相続分以外の指標も考慮されることがあります。具体的には,特別受益及び寄与分です。次回以降,順次簡単に説明します。


第205回 : 「遺産分割(1)」(8月30日付掲載)
 第201回の説明のとおり,相続人が複数いる場合,その範囲や人数によって,各人の相続の割合,すなわち,相続分が決まります。ただし,ここで決まるのは,あくまでも,「○分の□」といった割合にすぎません。もし相続財産が現金のみであれば,この割合を乗ずることにより,各人の相続分の具体的な内容が定まりますが,実際には,相続財産は,現金以外に,預貯金や不動産,動産,債権,有価証券など,雑多な種類の財産によって構成されていることが多く,このような雑多な財産を前にして,抽象的に「○分の□」と言っても,これにより各人の相続分の具体的な内容が当然に定まるわけではありません。したがって,このような場合には,各人の相続分の割合を指標として,誰にどの財産をどの程度割り振るのかという作業が必要になります。大雑把に言えば,この割り振りの作業が遺産分割です。
 遺産分割は,必ず相続人全員で行わなければならず,相続人の一部のみで行ってもそれは無効です。また,相続人間の話合いにより割り振りに関する協議が整えば,それで無事終わりますが,協議が整わない場合,最終的には,家庭裁判所に対し,遺産分割の審判を求める申立てをする必要があります。


第204回 : 「相続(7)」(8月28日付掲載)
 相続人は,相続により,原則として,被相続人のプラスの財産(不動産,動産,債権など)やマイナスの財産(債務など)を等しく承継しますが,例外がないわけではありません。例えば,雇用契約や委任契約に基づく地位や権利のように,当の本人の個性が強く重視される場合には,被相続人の死亡により消滅し,相続人には承継されないこともあります。このような地位や権利のことを,講学上,一身専属権などと言います。


第203回 : 「相続(6)」(8月25日付掲載)
 前回の説明のとおり,相続の放棄は,原則として,相続の発生及びこれにより自己が相続人になったことを知ったときから3か月以内に限り,許されます。これに対し,実務上,被相続人には借金はないと誤解して相続放棄の手続をとらなかった相続人が,3か月以上が経ってから,債権者からの督促状等により初めて借金の存在を知り,慌てて相続放棄の手続をとるような事例がしばしば登場します。
 このような事例では,3か月以上が経っている以上,原則として相続放棄は許されません。しかし,例外として,相続の発生当時,承継すべき相続財産が全くないと信じ,かつ,そのように信じたことにつき落ち度がなかった場合には,なお相続放棄が許されます。ただし,この例外は,裁判例で認められているもので,率直なところ,非常に厳しい条件ですので,たやすく認められるものでは到底ありません。


第202回 : 「相続(5)」(8月23日付掲載)
 相続は,原則として,プラスの財産のみならず,マイナスの財産(要するに借金等の債務)も,等しく承継します。そのため,プラスの財産よりもマイナスの財産の方が多いような場合には,相続を望まない人も出てきます。そこで,民法は,一定の手続をとることにより,相続そのものを放棄することを認めています。
 相続を放棄するためには,相続の発生(=被相続人の死亡)及びこれにより自己が相続人になったことを知ったときから3か月以内に,家庭裁判所に対して相続を放棄する旨を申述し,これが受理されなければなりません。この手続をとることなく上記3か月の期間が経過すると,原則として,相続を承認したものとみなされ,その後に放棄することは許されなくなります(これを単純承認と言います。)。


第201回 : 「相続(4)」(8月9日付掲載)
 相続人の範囲によって,各相続人の相続する割合(程度)が決まります。すなわち,相続人が1人であれば,その1人が全てを相続するので問題ありませんが,相続人が複数人いれば,どのように分配するかという問題が必然的に生じます。この相続人の相続する割合(程度)のことを相続分と言います。
 相続分は,民法で定められています。具体的には,相続人が配偶者及び子供の場合は,配偶者が全体の2分の1,子供が全体の2分の1となります(子供が複数人いれば,その2分の1を更に頭数で平等に配分されます。例えば,子供が3名いれば,各自,全体の6分の1です。)。次に,相続人が配偶者及び父母の場合は,配偶者が全体の3分の2,父母が全体の3分の1です。最後に,相続人が配偶者及び兄弟姉妹の場合は,配偶者が全体の4分の3,兄弟姉妹が全体の4分の1です(兄弟姉妹が複数人いる場合は,子供の場合と同様です。)。なお,配偶者がいない場合は,その配偶者の相続分も他の相続人に(平等に)分配されます。