第100回 : 「条件」(11月14日付掲載)
 言葉自体は日常用語ですが,講学上は,法律行為の効力の発生・変更または消滅を将来の発生不確実な事実にかからしめることを言います。例えば,「受験に合格したら,○○を買ってあげる」というような場合です(この例では,贈与契約という法律行為の効力の発生が,(将来の)受験合格という,そのとおりになるかどうか確実でない事実にかかっています。)。
 条件のポイントは,「発生不確実な」という点にあります。この点で,次回に説明する期限とは異なります。


第99回 : 「表見代理」(11月11日付掲載)
 馴染みの薄い用語と思います。前回の説明のとおり,代理人が,本当は代理権を与えられていないにもかかわらず,代理人として取引をしても,本人にはその効力が及びません。しかし,事案によっては,あたかも代理人が代理権を与えられているかのごとき外観を呈し,そのことにつき本人にも一定の責任があるようなこともあります。例えば,本人が代理人を信頼して代理人に白紙委任状を交付したところ,代理人がこれを濫用したような場合です。このような場合に,常に無権代理になるとしたのでは,代理人を信頼した取引の相手方にとって酷となることも出てきます。
 そこで,無権代理であっても,一定の要件を満たす場合には,代理権を与えられている場合と同様,有効なものとして本人に効力の及ぶことがあります。これを表見代理と言います。表見代理の類型として,民法は,3つのパターンを定めています。個々のパターンに言及しませんが,いずれも,本人に一定の責任があること及び取引の相手方が代理人に代理権があると正当に信頼したことを要件とするものと言うことができます。


第98回 : 「無権代理」(11月9日付掲載)
 代理が有効に成立するためには,当然ながら,代理人が本人からそのための代理権を与えられていることが必要ですので,代理権がないのに代理人として取引をしても,本人にはその効力が及びません。これを無権代理と言います。
 ただし,無権代理の場合は,事後的に,本人がこれを有効と認めることができます(これを追認と言います。)。本人の追認のない限り,無権代理人は,取引の相手方に対し,損害賠償責任等を負うことがあります。


第97回 : 「代理と使者」(11月7日付掲載)
 代理及び使者は,いずれも,個人の取引等の範囲を拡大または補充する制度ですが,両者には,理論上,決定的な相違点があります。それは,代理においては,代理人が意思決定をする(もちろん,本人からの代理の趣旨に基づいてですが。)のに対し,使者においては,本人が意思決定をなす点です。すなわち,使者は,本人が決定した意思をそのまま伝達する立場にあるにすぎません。その結果,例えば,第94回で説明した錯誤の有無の問題は,代理においては,代理人の認識を基準に判断するのに対し,使者においては,本人の認識を基準に判断します。
 もっとも,両者の区別は,理論上は明確ですが,実社会生活上は必ずしも明瞭でないことがまま見受けられます。


第96回 : 「詐欺」(11月4日付掲載)
 騙された状態でなされた契約や法律行為は,騙された本人(被害者)が取り消すことができます(逆に言えば,本人が取り消さない限り,有効です。)。しかし,この取消しは,騙した本人(加害者)以外の第三者に対しては,その第三者が事情を知っていたのでない限り,主張することができません。例えば,Bから騙されたAが土地をCに売却した場合,Aは,Aが騙されていることをCが知っていたのでない限り,Cに対して(詐欺による)取消しの効果を主張できず,土地を取り戻すことができません。
 このように,前回の強迫の場合と今回の詐欺の場合とでは,取消しの第三者に対する効果の点で違いがあります。これは,強迫の場合には,通常,被害者を非難することはできないのに対し,詐欺の場合には,被害者の方にも一定の落ち度があり,少なくとも,事情を知らない第三者の利益(上記の例ではCのこと)を犠牲にしてまで保護するのは相当でないと,民法の立法者が判断したためです。


第95回 : 「強迫」(11月2日付掲載)
 民法上は,「脅迫」ではなく「強迫」と表記します。強迫を受けた状態でなされた契約や法律行為は,強迫を受けた本人(被害者)が取り消すことができます(逆に言えば,本人が取り消さない限り,有効です。)。また,この取消しは,強迫を加えた本人(加害者)に対してのみならず,その他の第三者に対しても主張することができます。例えば,Bから強迫を受けたAが土地をCに売却し,CがさらにDに転売した場合,Aは,原則として,Dに対して(強迫による)取消しの効果を主張して土地を取り戻すことができます。この点は,次回説明予定の「詐欺」とは大きく異なります。


第94回 : 「錯誤」(10月31日付掲載)
 講学上の定義は,表示と内心的効果意思との不一致を言いますが,大雑把ながら,平たい言葉で言えば,要するに,勘違いです。例えば,A商品を購入する意思で,誤って,類似のB商品を購入した場合がごときです。
 契約の一方当事者に錯誤がある場合,その当事者の利益を保護するため,その契約は,原則として無効です。ただし,錯誤に陥ったことにつき重大な過失があるときは,もはや保護されず,無効とはなりません。


第93回 : 「公序良俗」(10月28日付掲載)
 「公の秩序及び善良の風俗」を縮めた表現です。公序良俗に違反する契約や法律行為は,無効となります。何が公序良俗の内容となるかは,時代とともに変遷しうる事柄です。なお,法律違反=公序良俗違反になるとは必ずしも限りません。


第92回 : 「法定代理人」(10月26日付掲載)
 法律上の原因に基づき(当然に)選任される代理人を言います。これに対し,委任等の契約に基づき選任される代理人を任意代理人と言います。
 法定代理人の最も身近な例は,未成年者(本人)に対する父母(親権者)です。そのほか,高齢者等に対する成年後見制度に基づく成年後見人などが挙げられます。


第91回 : 「未成年者」(10月24日付掲載)
 20歳に満たない人を言います。未成年者は,原則として単独で法律行為をすることができず,これに反した場合,本人または法定代理人がその行為を取り消すことができます。一般に判断能力の未成熟な未成年者の利益を保護するためです。
 ただし,法定代理人が予め同意を与えていたり,未成年者が成年者である旨相手方に信じさせるため詐術を用いたりした場合は,もはや取り消すことができません。また,上記のとおり,未成年者の利益を保護するためですので,贈与を受ける場合のように,単に権利を得る場合などには,未成年者であっても,単独でこれをすることができます。


第90回 : 「信義則」(10月21日付掲載)
 「信義誠実の原則」を縮めた表現で,多方面に登場しますが,実務上は,契約の解釈の(補充的な)基準として,あるいは,これに違反する権利の行使を排斥する理論として,登場することが多いと言うことができます。
 後者の場合,機能的には,前回の権利濫用(論)に共通するものがあります。


第89回 : 「権利濫用」(10月19日付掲載)
 ある権利が存在することを前提に,その権利の行使を形式的に認めることが実質的に考えて著しく不相当である場合に,その権利の行使を排斥する理論です。権利濫用論は,権利の存在そのものを否定するものではなく,あくまでも,その行使を否定する考え方です。
 ただし,権利は本来行使される性格のものとして存在しますので,その本来的な性格に従って行使することが濫用という評価を受けるためには,余程の事情がなければならないは当然です。


第88回 : 「再生計画認可」(10月17日付掲載)
 債務者の作成した再生計画は,裁判所から認可を受ける必要があります。裁判所は,認可にあたり,債権者の意向を考慮しますが,その考慮の程度は,給与所得者等再生手続と小規模個人再生手続では異なります。すなわち,裁判所は,前者の場合には,求意見というかたちをとり,その意見を求めるものであり,債権者の多数意見に必ずしも拘束されませんが,後者の場合には,債権者の(多数決による)決議というかたちをとり,債権者の多数意見に拘束され,過半数の債権者が再生計画を不可とするときは,不認可としなければなりません。
 再生計画の認可または不認可によって,裁判所における個人再生の手続は終了します。再生計画が認可された場合の,その計画に従った(分割)返済は,債務者の責任で履行され,裁判所は原則として関知しません。


第87回 : 「最低弁済額」(10月14日付掲載)
 個人再生の手続は,破産手続と異なり,将来の収入から債務の一部を(分割)返済することを予定していますが,この返済すべき金額は,法律の定める基準に従って決まります。
 上記基準は,給与所得者等再生手続と小規模個人再生手続で異なる部分もありますが,両者に共通の基準として,債務の総額が100万円未満の場合はその債務全額,債務の総額が100万円〜500万円の場合は100万円の金額,債務の総額が500万円〜1500万円の場合はその債務額の5分の1の金額,債務の総額が1500万円以上の場合は300万円となります(債務の総額が100万円未満の場合を除き,あくまでも最低限返済すべき金額ですので,それ以上の金額を自主的に返済することは妨げられません。)。このほか,債務の総額以外の指標に基づく基準もあるのですが,ここでは説明を省略します。
 債務者は,上記基準に従って返済すべき金額を算出し,その返済方法等に関する計画=再生計画を作成することになります。


第86回 : 「再生計画」(10月12日付掲載)
 個人再生の手続では,債務者は,債務の一部の返済方法等に関する計画案を作成します。これを再生計画と言います。返済すべき債務の一部がどの程度の金額になるかは,法律の定めにより決まります。
 作成された再生計画については,最も利害関係を有する債権者の意見を聴く手続が予定されていますが,債権者の意見の反映のされ方は,給与所得者等再生手続と小規模個人再生手続では異なります。


10月10日はお休みです。


第85回 : 「個人再生」(10月7日付掲載)
 そのままでは将来破産する危険のある債務者が,債務の一部を分割返済(原則3年)し,残部の免除を受けることによって,経済的な更正の機会を得る手続を言います。
 個人再生手続は,大別して,サラリーマンなど定収入のある債務者が利用する給与所得者等再生手続と,それ以外の債務者(自営業者など)が利用する小規模個人再生手続があります。いずれの手続にせよ,個人再生手続は,破産手続と異なり,債務の一部の返済を予定していますので,収入のない債務者が利用することは不可能です。


第84回 : 「非免責債権」(10月5日付掲載)
 前々回の説明のとおり,免責許可決定の効力が一般的に及ばない債権(債務)を非免責債権と言い,税金,故意による(過失による場合は除かれます。)不法行為に基づく損害賠償金,労働賃金,子供の養育料等,破産法に定められています。
 ただし,ある債権が非免責債権に当たるかどうかについては,破産手続上,原則として判断されることはありません。この点は,債権者がその債権の履行を求めて訴訟を起こした場合に,その訴訟手続の中で,被告となった債務者(破産者)が免責の事実を主張し,これに対し,債権者(原告)が非免責債権に当たる旨主張することにより,初めて判断されることになります。


第83回 : 「免責不許可事由」(10月3日付掲載)
 免責は,常に許可されるわけではなく,著しい無駄遣いなど,破産法の定める一定の事由がある場合には,不許可となることもあります。免責が不許可となる場合として破産法の定める,この事由のことを免責不許可事由と言います。免責不許可事由の典型例は著しい浪費ですが,そのほかに,騙してお金を借りた場合,破産申立てにあたり裁判所に虚偽の申告をした場合などがあります。
 裁判所は,破産者に免責不許可事由が認められない限り,必ず免責を許可しなければならず,他の理由により不許可とすることは許されません。反面,裁判所は,破産者に免責不許可事由が認められるときでも,その程度・内容や経緯等の事情を総合的に考え,裁量的判断により免責を許可することはできます。


第82回 : 「免責」(9月30日付掲載)
 破産手続上の配当によっても返済されない債務が最後まで残った場合,個人である破産者は,その最後まで残された債務について,当然には責任を免れません。個人である破産者がその責任を免れるためには,免責の許可決定を受ける必要があります(なお,会社が破産者の場合には,破産手続の終了により会社の存在自体が消滅しますので,残された債務の責任云々は問題になりません。)。
 破産者が免責許可決定を受けると,最後まで残された債務について,原則として責任を免れます。ただし,これには例外があり,税金,故意による不法行為に基づく損害賠償金,労働賃金,子供の養育料等については,免責許可決定の効力が及ばない旨定められています。このように,免責許可決定の効力が及ばない債権(債務)を非免責債権と言います。


第81回 : 「配当」(9月28日付掲載)
 破産管財人は,破産手続において,破産者の残された財産をお金に換え,あるいは,破産者の有する債権を破産者に代わって回収し,これにより財源を確保すると,破産債権者に対して平等に返済します。これを配当と言います。
 ただし,平等と言っても,第79回の説明のとおり,破産債権者には,債権の発生原因や性格等に応じて優劣関係があり,配当を受けうる順番にも差が出てきます。例えば,税金等の租税債権や労働者の賃金債権は,他の債権に優先して配当を受けることができます。


第80回 : 「債権者集会」(9月26日付掲載)
 破産手続上,破産債権者により構成される集会を言います。破産手続の帰趨に最も利害関係を有する破産債権者に対し,破産手続の進捗状況を報告すること,あるいは,その意見を破産手続に反映させること等を目的としています。
 ただ,実際には,社会や地域の耳目を集めるような会社や個人の破産事件であれば兎も角,それ以外の通常の破産事件では,債権者集会への破産債権者の出席率は低く,出席者零名ということも必ずしも稀ではありません。


第79回 : 「破産債権者」(9月23日付掲載)
 厳密な定義はさておき,大雑把には,破産宣告当時に破産者に対して債権を有していた者を破産手続上,破産債権者と言います。
 債務者が破産宣告を受けると,破産債権者は,以後,原則として自己の債権を任意に行使して実現を図ることが許されなくなります。その代わり(?)に,破産債権者は,破産手続において,破産者の残された財産から配当を受けうる地位に立ちます。ただし,破産債権者の内部にも,その債権の発生原因や性格等に応じて優劣関係があり,配当を受けうる順番にも差が出てきます。


第78回 : 「破産廃止」(9月21日付掲載)
 破産手続は,破産決定(破産宣告)に始まり,破産管財人が破産者の残された財産をお金に換えてこれを債権者に分配することにより終了するのが,本来の姿です。しかし,初めから破産者にめぼしい財産のないことが明らかであったり,その事実が破産管財人による調査の結果明らかになったりすると,以後の手続を続ける実質的な意味がありませんので,その時点で,破産手続は終了を迎えます。これを破産廃止と言います。
 破産廃止は,初めから破産者にめぼしい財産のないことが明らかなため,破産決定(破産宣告)と同時に破産廃止となる場合と,その事実が破産管財人による調査の結果明らかになったため,破産手続の途中で破産廃止となる場合の2種類があります。実務上,前者を同時廃止(省略して同廃),後者を異時廃止と言います。


第77回 : 「破産管財人」(9月19日付掲載)
 個人や会社が破産の決定を受けると,裁判所は,同時に,原則として破産管財人を選任します(実務では,通常,弁護士の中から選任されます。)。破産管財人は,破産手続において,破産者に代わって,破産者の残された財産をお金に換え,これを債権者に分配します。
 破産管財人の職務が上記のようなものである以上,破産者にみるべき財産がない場合には,わざわざ選任する必要がありません。そのため,そのような場合には,破産管財人が選任されることなく,破産手続が終了します。これを破産廃止と言います。


第76回 : 「破産」(9月16日付掲載)
 破産とは,通常,現在の借金を直ちに全額返済できない状態(支払不能),または,負債の額が純然たる資産の額を超過している状態(債務超過)を言います。
 支払不能の状態と債務超過の状態は,重なる場合が多いですが,完全に重なるとも限りません。例えば,手持ちの現金がなくても,社会的信用があり,他者から資金の融通を得られる場合は,債務超過とはなっても支払不能にはならないことがあり得ます。


第75回 : 「保釈」(9月14日付掲載)
 本当は第41回の次のあたりで触れるべき話題なのですが,失念しておりました(謝罪)ので,刑事裁判手続編(笑)の最後に触れさせていただきます。
 保釈は,勾留されている被告人(起訴前の被疑者については制度の対象外です。)について,一定額の保証金を納めること,その他幾つかの要件を遵守することを条件に,刑事裁判手続中,被告人を釈放する制度です。被告人が,保釈中に逃亡すると,納められた保証金が没収されることがありますが,保釈制度は,これを威嚇として,被告人の逃亡を防止します。
 保釈には,一定の要件を満たす場合に被告人の権利として認められる権利保釈と,それ以外の場合に裁判所がその判断で許容する裁量保釈の2種類があります。また,保証金の額は,被告人の資力の程度や起訴された犯罪の軽重等の事情を総合的に考慮し,上記威嚇に足りる金額として,裁判所が定めます。


第74回 : 「執行猶予取消」(9月12日付掲載)
 第69回の説明のとおり,執行猶予となると,刑務所等に入らずに社会内でやり直す機会が認められます。
 しかし,執行猶予の期間中に再び犯罪を犯し,その刑事裁判で懲役刑等を受けると,執行猶予が取り消されて,収監される可能性が生じます。もっとも,この場合でも,当然に取り消されるのではなく,検察官からの請求を受けて,取り消すかどうかを審理するための裁判が別途行われ,その結果,裁判所が取消しが相当であると判断したときに初めて,執行猶予が取り消されることになります。


第73回 : 「労役場留置」(9月9日付掲載)
 例えば,被告人の自由を奪うことを本質とする懲役刑や禁錮刑の場合は,通常,これを執行できないということはありません。これに対し,罰金刑の場合は,被告人が無一文であれば,事実上,これを執行することができません。そこで,そのような場合には,被告人を一定期間労役場と呼ばれる場所に留置し,同所で労働力を提供させることをもって,罰金の納入に代えさせることができます。これを労役場留置と言います。
 労役場に留置される期間は,例えば,「被告人を罰金10万円に処する。この罰金を完納できないときは,金5000円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。」というようなかたちで決められます。上記の例でいえば,罰金を1円も納めることができなければ,20日間,労役場に留置されます。


第72回 : 「没収」(9月7日付掲載)
 被告人の犯した犯罪と一定の関係にある,被告人の所有物を国家が剥奪することを言い,広い意味で,刑罰に含まれます。ただし,刑事裁判上,没収は,それのみで独立して言い渡されることはなく,他の懲役刑や罰金刑等の刑罰と併せて言い渡されます(そのため,没収は,附加刑などと言われます。)。
 没収される物は,法令で定められていますが,例えば,犯行に使用した凶器・道具,犯行によって取得した財産,覚せい剤等所持すること自体が原則として禁止されている物などです。ただし,あくまでも,原則として被告人の所有物(または私人の所有が許されていない物)でなければなりませんので,例えば,被告人が第三者から借りた道具を使用して犯行に及んでも,これを没収することはできません。


第71回 : 「懲役刑と禁錮刑」(9月5日付掲載)
 懲役刑及び禁錮刑は,いずれも自由を奪うことを本質とする刑罰ですが,懲役刑では労務作業の従事が義務づけられるのに対し,禁錮刑ではそれが義務づけられない点で,両者は大きく異なります。
 禁錮刑は,一般に,交通事犯などの過失犯で科されることが多いです。


第70回 : 「前科」(9月2日付掲載)
 成人に達してから刑事罰を受けると,前科となります。前科があると,法律上,法定刑が重くなることがある(第67回参照)ほか,量刑理由として考慮され,事実上,宣告刑が重くなることもありますが,結局は,前科の内容によりますので,必ずそうであるとも限りません(例えば,数十年前に交通事犯による罰金前科が1つあっても,通常は,殆ど量刑に影響しません。)。


第69回 : 「実刑と執行猶予」(8月31日付掲載)
 「被告人を懲役2年に処する。」などというように,懲役刑や禁錮刑に処せられると,原則として直ちに刑務所に入らなければなりません。しかし,「被告人を懲役2年に処する。この裁判確定の日から4年間刑の執行を猶予する。」などというように,情状によっては,直ちに刑務所に入るのではなく,一定期間,これを猶予されることがあります。これを(刑の)執行猶予と言い,これに対し,実際に直ちに刑務所に入る場合のことを俗に実刑と言います(なお,執行猶予は法律にも登場する用語ですが,実刑は一種の俗語です。)。
 執行猶予とするかどうかは,裁判所が量刑の一環として裁量により判断します。執行猶予の期間は,最長で5年間が限度ですが,再び犯罪を犯すことなく,この期間が経過すると,宣告刑の効力は失われますので,もはや刑務所に入らずに済むことになります。


第68回 : 「宣告刑」(8月29日付掲載)
 裁判所が被告人に対して科する具体的な刑罰を言います。
 前々回及び前回の説明のとおり,裁判所は,原則として法定刑(=処断刑)の範囲内で,ただし,一定の理由のある場合は,法定刑から変更された処断刑の範囲内で,犯罪の内容等を中心に,諸般の事情を総合的に考慮して,被告人に対して科すべき具体的な刑罰の程度を判断決定します。この判断決定された刑罰が宣告刑となります。


第67回 : 「処断刑」(8月26日付掲載)
 前回のとおり,法定刑には,通常,幅があり,しかも,一定の理由があると,その幅が広がったり狭まったりします。したがって,その場合には,裁判所は,その広まったり狭まったりした刑の範囲内で,被告人に対して科すべき具体的な刑罰の程度を判断します。この広まったり狭まったりした刑のことを処断刑と言います。当然ながら,上記にいう一定の理由のないときは,法定刑=処断刑となります。
 幅の広がる理由の一例は,過去に犯罪を犯して懲役刑を受け(いわゆる前科です。),その刑の執行が終わってから5年が経たないうちに,今回の犯罪を犯した場合があります。これを累犯加重と言い,刑の上限が2倍になります(例えば,窃盗罪の法定刑は10年以下の懲役刑ですが,累犯加重されると,20年以下の懲役刑となります。)。ただし,2倍の結果が30年を越える場合には,30年で打ち止めです。また,無期懲役刑は,その性格上,累犯加重されません。一方で,幅の狭まる理由の一例は,犯人が自首した場合があります。これを自首減刑と言い,刑の上限及び下限がいずれも2分1になります。ただし,この自首減刑は,裁判所がその必要があると認めたときに限られます。
 なお,2倍になる,あるいは2分の1になると言いましても,それは,あくまでも法律上選択可能な刑の幅がそうなるということであり,実際に被告人に対して科される具体的な刑罰が当然に2倍になったり2分の1になったりするわけでは全くありません。


第66回 : 「刑罰」(8月24日付掲載)
 一般に,法令の定める刑罰には,死刑,懲役刑,禁錮刑,罰金,科料などがあり,犯罪の種類や軽重等に応じて定められています。個々の犯罪につき法令の定める刑罰を法定刑と言います。
 法定刑は,死刑を除き,例えば,懲役刑であればその年数に,罰金刑であればその金額には,それぞれ幅のあるのが通常で,裁判所は,その幅の範囲内で,個々の事件の内容等に応じて,被告人に対して科すべき具体的な刑罰の程度を判断します。
 ただし,この法定刑の幅は,一定の理由があると,広がったり狭まったりします。次回は,この点を説明します。


第65回 : 「判決」(8月22日付掲載)
 判決一般については第32回でも触れていますので,今回は,刑事事件の判決に焦点を絞った,その補足となります。
 民事事件では,印刷された書面である判決書の内容が判決となりますが,刑事事件では,言渡期日に朗読された内容が判決となります。その刑事事件の判決は,主文と呼ばれる部分と理由と呼ばれる部分からなります。主文では,有罪であれば,被告人に対して科すべき刑罰等を宣言し,一方,無罪であれば,被告人に対して無罪である旨宣言します。そして,理由では,主文の結論に至った根拠や裁判所の解釈等が明らかにされます。
 なお,法令の定める刑罰には,通常,一定の幅があるため(例えば,窃盗罪は,10年以下の懲役です。),裁判所は,その幅の中で,被告人に対して科すべき刑罰の程度を判断することになります。裁判所がその判断にあたって考慮した事情を実務上「量刑理由」などと言います。


 (8月10日〜8月19日は夏期休暇(笑)です。)


第64回 : 「結審」(8月8日付掲載)
 刑事裁判の審理手続の最後には,前回説明の検察官による論告求刑のほか,通常,弁護人の最終意見陳述及び被告人の最終意見陳述がなされます。これらが終わると,刑事裁判の審理手続は,全て終了となり,あとは判決宣告のみを控える状態になります。これを俗に結審と言います。
 判決宣告は,別の日時が指定されることが通常ですが,比較的単純な交通事犯などでは,結審したその日のうちに,時間を改めて判決宣告がなされることもあります。


第63回 : 「論告・求刑」(8月5日付掲載)
 刑事裁判において,証拠調べの手続が全て終了すると,最後に,検察官は,被告人が有罪かどうか,被告人に対して如何なる刑罰を科すべきかにつき,意見を述べます。この意見を論告と言い,そのうち特に科すべき刑罰の意見部分を求刑と言います。
 求刑は,公の代表者である検察官の意見として尊重され,実務では,裁判所による宣告刑の上限を事実上画するのが通例ですが,法律的にはあくまで検察官の意見にすぎず,裁判所は,これに当然に拘束されるものではなく,求刑より重い刑罰を科することも理論上は可能です。ただし,そのような例は,実務上,極めて稀であることは,間違いありません。


第62回 : 「事実認定と法令適用」(8月3日付掲載)
 刑事裁判は,大雑把には,被告人が本当に起訴された犯罪事実を犯したのかという事実認定と,認定された犯罪事実に法令を適用して被告人に対する刑罰を決めるという法令適用の,2つの作用からなります。
 資格試験等では,通常,後者の法令適用の知識・能力が問われ,事実認定の能力が問われることはありません。一方,実務では,逆に,事実認定こそが争いの対象であり,法令適用,とりわけ,予備校の答案練習等で出題とされるような法律上の問題点が争われることは,非常に限られています。
 認定した事実が正しくなければ,いくらこれに法令を正確に適用しても無意味なことは,自明の理です。刑事裁判に関する様々なルールは,この事実認定の正確性を担保するためのものと言っても,過言ではありません。


第61回 : 「違法収集証拠排除法則」(8月1日付掲載)
 文字どおり,違法な手続により収集された証拠につき,原則として,その証拠能力を否定して,刑事裁判の証拠から排除する主義を言います。これは,捜査機関による捜査が過熱して,行き過ぎた捜査の行われることを抑止することなどが目的です。
 もっとも,その違法が些細な場合にまで一律に排除するのでは,あまりにも犯人処罰の必要性等を軽視する結果になりますので,一般には,その違法が重大な場合に限り,排除されると考えられています。


第60回 : 「補強法則」(7月29日付掲載)
 被告人が起訴された犯罪事実の犯人であると認定するための唯一の証拠が,他ならぬ被告人自身の供述である場合には,被告人を有罪とすることを許さないとする主義を言います。
 補強法則は,被告人の自白が偏重されて,万が一にも誤った裁判がなされたり,捜査機関が自白の獲得に奔りすぎる弊害等を防ぐために認められるものです。補強法則の適用の際,被告人の供述以外で,被告人が犯罪事実を犯したことを認定するための証拠を補強証拠と言います。例えば,窃盗罪については,被害者作成の被害届が典型的な補強証拠となります。


第59回 : 「伝聞法則(10)−不適用」(7月27日付掲載)
 最初の第50回の中で,伝聞法則の定義につき,「反対尋問を経ていない供述証拠の証拠能力を原則として排除する主義」と説明しました。しかし,実は,この説明は,分かりやすさを優先したため,厳密には正確さを欠いたものになっています。改めて,伝聞法則を正確に定義すると,「反対尋問を経ていない供述証拠につき,その供述内容が真実であることを証明するための証拠とする場合には,その証拠能力を原則として排除する主義」となります。すなわち,『その供述内容が真実であることを証明するための証拠とする場合』という条件が加わるのです。
 逆に言いますと,内容の真否に関係なく,その供述が存在することそれ自体を証明するための証拠とする場合には,伝聞法則の適用はそもそも問題になりません。これを−伝聞法則の例外と区別して−伝聞法則の不適用などと言います。
 具体例を挙げると多少分かりやすくなるかもしれません。専門書でもよく取り上げられるような類いの例ですが,例えば,刑事裁判の法廷で,証人Aが,「Bは自分のことを宇宙人だと言っていた」と証言したとします。この証言により,Bの発言内容のとおり,Bが本当に宇宙人であることを証明しようというのであれば,伝聞法則が適用されますが,Bの発言それ自体から,Bの精神状態が正常でないことを証明しようというのであれば,伝聞法則はそもそも適用されません。後者の場合,Bの発言内容が真実かどうかは問題とならず,あくまでも,そのような発言が存在するかどうかが問題なのであり,その吟味は,Bに対する反対尋問によらずとも,その発言を聞いた証人Aに対する反対尋問によって十分に達成できるからです。
 最後は,やや高度な議論となりましたが,今回の分で,伝聞法則の説明は終了となります。


第58回 : 「伝聞法則(9)−例外(4)」(7月25日付掲載)
 前回まで伝聞法則の例外の具体例を幾つか取り上げましたが,これらの例外は,抽象的に言えば,その供述証拠を刑事裁判の証拠とする必要性と,その供述証拠が作成された当時の状況の信用性という,2つの要素の相関関係によって決められています。前者の要素が強ければ強いほど,後者の要素が多少弱くても,伝聞法則の例外として認められやすく,その逆もまた然りです。例えば,捜査段階で作成された参考人の供述調書についてみると,警察官の面前で作成されたものよりも,検察官の面前で作成されたものの方が,伝聞法則の例外として認められるための要件が緩やかです。さらに,裁判官の面前で作成されたものに至っては,証拠とする必要性のある限り,無条件で,伝聞法則の例外として認められます。後者のものになればなるほど,公平な立場で作成されるという一般的な信用性があると考えられているためです。
 長く続きました伝聞法則の説明も,次回にちょっとした補足した上で,終了予定です。


第57回 : 「伝聞法則(8)−例外(3)」(7月22日付掲載)
 伝聞法則の例外として,前回の同意のある場合のほかに,実務上登場することの多いものには,例えば,前々回冒頭の参考人の供述調書につき,その参考人が法廷に証人として呼ばれ,供述調書の内容と異なる証言をした場合があります。この場合は,他の一定の条件を満たすことも必要ですが,伝聞法則の適用が排除され,刑事裁判の証拠となることがあります。また,上記参考人が病気や死亡などの理由により,法廷で証人として証言できない場合も,他の一定の条件を満たせば,伝聞法則の適用が排除され,刑事裁判の証拠となることがあります。


第56回 : 「伝聞法則(7)−例外(2)」(7月20日付掲載)
 伝聞法則には複数の例外が法律上定められていますが,実務で登場する機会の最も多い例外は,証拠とすることにつき相手方当事者の同意がある場合です。例えば,前回冒頭の参考人の供述調書につき,被告人(及び弁護人)が証拠とすることに同意すれば,伝聞法則の適用が排除され,刑事裁判の証拠となります。
 これは,通常最も利害関係を有する相手方当事者が,その内容を確認した上で( なお,刑事裁判で証拠を提出する場合,相手方当事者には,事前にその内容を確認する機会が保障されます。),刑事裁判の証拠とすることに異議がない旨表明している以上,供述証拠の内容に供述証拠特有の誤りが混在している可能性は低いと考えることができるからです。


第55回 : 「伝聞法則(6)−例外(1)」(7月18日付掲載)
 前回の説明のとおり,伝聞法則により,例えば,事件の参考人が捜査段階で捜査機関に対して話した内容を取りまとめた供述調書を刑事裁判で証拠とすることは,原則として許されません。その参考人に対する反対尋問がなされていないからです。
 しかし,この伝聞法則を常に貫くと,上記の例では,供述調書を証拠とすることに代えて,その内容を話した参考人を法廷に呼び,逐一証言してもらわなければならず,その内容や人数次第では長大な時間を要することになり,かえって,被告人に不利益をもたらすこともあり得ます。また,極端な場合,その参考人が既に死亡していることもあり得ないではありません。これらのような場合にまで,常に伝聞法則を貫くことは,かえって不適当なときも出てきます。そこで,法律により,一定の要件を満たすことを条件として,伝聞法則の例外が複数定められています。
 これらの例外の中には高度の知識を要するものもあり,その全てを説明することは,明らかに,このコーナーの守備範囲を超えます。そこで,次回以降,基礎的な事柄と代表的な例外の幾つかにつき,説明する予定です。


第54回 : 「伝聞法則(5)−制度趣旨」(7月15日付掲載)
 前回までで,伝聞法則の定義に登場する用語の説明は終わりました。伝聞法則の定義を再度繰り返しますと,反対尋問を経ていない供述証拠の証拠能力を原則として認めない主義を言います。
 伝聞法則の制度趣旨は,次のとおり,刑事裁判の審理から不十分な証拠をできる限り排除しようという点にあります。すなわち,証言にせよ,供述調書にせよ,供述証拠は,人の生理作用を経ています。証人による過去の体験談の証言を例にとれば,過去の出来事を見聞きしたという『知覚』作用,これを『記憶』したという作用,証言する段階で記憶内容から証言すべき内容を再構成するという『表現』作用,これを話すという『叙述』作用という各過程を経ています。ところで,人間が機械のように性格であれば,この各過程に誤りが入る可能性は非常に少ないのでしょうが,そうでない以上,例えば記憶違いなど,本人の意識するとしないとにかかわらず,そのどこかに誤りが入ってくる可能性が少なくないということになります。そして,このような誤りの有無について,最も関心を有するのは,通常,裁判手続における相手方当事者(検察官の用意した証拠であれば,被告人(及び弁護人)。)です。したがって,当事者の一方が用意した供述証拠につき,その内容に誤りがあるかどうかの吟味は,相手方当事者にさせるのが最も適切です。その吟味の手段として相手方当事者に与えられるのが反対尋問権であり,最低限,そのような反対尋問に晒された供述証拠にのみ証拠となる資格を付与する主義が伝聞法則なのです。
 伝聞法則の結果,例えば,捜査機関が捜査段階で作成した,被疑者や参考人の供述調書は,原則として刑事裁判の証拠とすることができません。しかし,実際には,これらの供述調書も,刑事裁判の証拠として頻繁に利用されています。それは,伝聞法則には数多くの例外が法律上定められているためです。次回以降は,この例外の説明に移ります。


第53回 : 「伝聞法則(4)−証拠能力」(7月13日付掲載)
 裁判手続において審理判断の根拠となるべき資料(=証拠)となるための資格(適格)を言います。証拠能力を欠く資料を証拠として提出することはできません。
 証拠能力は,建前上は,民事裁判及び刑事裁判の双方で問題となりますが,実務上は,民事裁判で証拠能力が問題となることはほとんどなく(盗聴等,違法性の高い方法により収集された証拠について問題となる程度です。),通常,刑事裁判で問題となる事柄であり,法律上も,刑事裁判についてのみ厳格に定められています。この結果,民事裁判よりも刑事裁判で提出できる証拠の範囲の方がより狭くなりますが,これは,刑事裁判は,被告人の自由や財産,ときに生命を奪う結果を伴うため,裁判手続上から不十分な証拠をできる限り排除するためということができます。


第52回 : 「伝聞法則(3)−反対尋問権」(7月11日付掲載)
 当事者の一方から証拠として提出された供述証拠の内容を話した人に対し,他方当事者が,裁判手続で,直接質問してその内容を吟味する権利を言います。
 刑事裁判では,実務上,通常,検察官から提出された供述証拠について,被告人(及び弁護人)の反対尋問権が問題となります。具体的には,例えば,検察官が証拠として提出した,被害者や目撃者の供述調書について,その被害者や目撃者に証人として裁判所に来てもらい,被告人(及び弁護人)が直接質問する場合があります。


第51回 : 「伝聞法則(2)−供述証拠」(7月8日付掲載)
 供述証拠とは,人の話したことを内容とする証拠を言います(これに対し,それ以外の証拠を非供述証拠と言います。)。ここに言う「人」には,被疑者や被告人も含まれますが,供述証拠の代表例としては,被疑者や参考人が捜査機関に対して話した内容をとりまとめた供述調書を挙げることができます。
 学説上,供述証拠か非供述証拠か争いのある証拠として,例えば,写真があります。写真については,供述証拠と同視する考え方もありますが,一般的には,非供述証拠と考えられています。