第200回 : 「相続(3)」(8月7日付掲載)
 前回説明の相続人の範囲の例外として,被相続人の死亡する前に子供が死亡した場合,その子供に子供,すなわち,被相続人からみた孫がいると,その孫が代わりに相続人となります。このような相続を代襲相続と言います。被相続人の死亡する前に孫が死亡し,その孫に子供,すなわち,被相続人からみたひ孫がいるときも同様で,ひ孫以降も同様ですが,実際には,年齢上,自ずと限界があります。


第199回 : 「相続(2)」(8月4日付掲載)
 相続人の範囲及び順番は,民法で決められています。具体的には,まず,被相続人の配偶者は,常に相続人になります。次に,配偶者以外の相続人として,第一順位にいるのは被相続人の子供です。子供がいない場合には,第二順位として被相続人の父母です。子供も父母もいない場合には,最後の第三順位として被相続人の兄弟姉妹となります。相続人の範囲は,以上までですので,それ以外の親族は相続人にはなり得ません。
 配偶者以外の相続人については,先順位の相続人がいると,後順位の相続人の出番はありません。したがって,例えば,被相続人に配偶者及び子供がいる場合には,父母及び兄弟姉妹は相続人になり得ません。


第198回 : 「相続(1)」(8月2日付掲載)
 人が死ぬと,その人と一定の身分関係にある者が,原則として,その財産や債務を承継します。これを相続と言い,承継される者(=死者)を被相続人,承継する者を相続人と言います。
 承継の具体的内容は,相続人の人数や身分関係,あるいは相続人間の合意等によって左右され,また,一定の手続をとることにより,相続そのものを放棄することもできます。
 次回以降,順次説明します。


第197回 : 「親権者」(7月31日付掲載)
 離婚する夫婦に未成年の子供がいる場合,夫婦のいずれか一方を離婚後の親権者として必ず定めなければなりません。親権者は,協議離婚や調停離婚の場合は,夫婦双方の合意に基づいて定められ,また,裁判離婚の場合は,裁判所が,夫婦双方の意見を踏まえつつ諸般の事情を総合的に考慮して,より適任であると思われる方を親権者として定めます。
 親権者の指定は,実務上,離婚の際の紛議の種となることが多く,離婚自体については夫婦双方とも了解しながら,どちらが親権者になるかの点で争いが残り,その結果,協議離婚や調停離婚ができず,裁判離婚に発展することも少なくありません(上記のとおり,離婚時には(同時に)必ず親権者を定めなければならないため,離婚自体については合意が成立しても,親権者について合意が成立しなければ,結局,全体としての合意も不成立とせざるを得なくなります。)。


第196回 : 「財産分与」(7月28日付掲載)
 夫婦が共同生活を始めると,預貯金や不動産など,両者の努力・協力により様々な財産が形成されます。したがって,離婚時には,夫婦間で,この共同形成された財産を精算する必要が生じます。これを財産分与と言います。
 財産分与の制度は,上記のとおり,共同形成された財産を精算するものですので,夫婦の一方が婚姻前から所有している財産は,財産分与の対象となりません(このような財産を特有財産と言います。)。一方で,夫婦両者の努力・協力により形成された以上,たとえその形式的な名義が夫婦の一方であっても,原則として,夫婦が平等の貢献をしたものとみなされ,財産分与の対象となります。


第195回 : 「有責配偶者(2)」(7月26日付掲載)
 仮に離婚原因があるとしても,有責配偶者からの離婚請求が許されるかどうかは,考え方が分かれます。大別すると,2つの考え方に分かれます。1つは,破綻の事実を重視し,有責配偶者からの離婚請求であっても広く許容する立場で,講学上,破綻主義と言われます。これは,既に破綻している以上,戸籍上の婚姻関係のみ形式的に残存させておくことは,かえって好ましくなく,無責配偶者の救済は慰謝料等によって図られるべきであるという考え方が背後にあります。もう1つは,破綻に至った理由や原因も重視し,有責配偶者からの離婚請求を狭く限定する立場で,講学上,有責主義と言われます。
 離婚制度についてどちらの立場をとるかは,各国によって分かれます。日本の裁判では,かつては有責主義的な考え方が強かったですが,最近は,破綻主義の方向に流れつつあると言われており,有責配偶者からの離婚請求であっても,相当年数の別居期間等,一定の要件を満たせば,離婚請求が認められるようになってきています。


第194回 : 「有責配偶者(1)」(7月24日付掲載)
 前回の説明のとおり,夫婦関係が修復の余地のない程に破綻している場合には,通常,離婚原因が認められますので,相手方の意思に反してでも,裁判で離婚を求めることが可能になります。
 これは,破綻に至った責任が専らあるいは主として相手方にあるとき,換言すれば,相手方が有責配偶者であるときには,特段問題になりません。これに対し,自分自身が有責配偶者であるときは,大きな問題になります。自ら夫婦関係を破壊しておきながら,これを理由に離婚を求めることができるとするのは,倫理的・道義的にみて許しがたいとも考えられるからです。
 ここに,有責配偶者からの離婚請求の当否という問題が生じます。


第193回 : 「破綻」(7月21日付掲載)
 前回,離婚原因の1つとして,「婚姻を継続しがたい重大な事由」を挙げましたが,これは,換言すれば,夫婦関係が修復の余地のない程に破綻していることです。そのような破綻に至った理由や原因となる事情には,特に限定はありませんが,さりとて,ある程度客観的にみて納得しうるものでなければなりません。例えば,性格の不一致という事情も,しばしば見聞きします。これが離婚原因になり得ないというわけではありませんが,反面,もともと夫婦は,相手方を長短併せて受容し,相互に扶け合うべき関係ですので,両者の性格が一致しないからといって,たやすく離婚を許容するのも合点がいかないところです。


第192回 : 「離婚原因」(7月19日付掲載)
 離婚は,手続的にみると,協議離婚,調停離婚及び裁判離婚の3種類に分かれます。このうち,前二者は,夫婦両者の合意を基礎としますので,夫婦の一方が反対すれば,不可です。これに対し,裁判離婚は,前回の説明のとおり,一定の要件を満たせば,一方の意思に反してでも離婚を求めることが可能になります。この要件として,少なくとも必要なのが離婚原因です。
 離婚原因は,民法で定められており,具体的には,@不貞行為,A悪意の遺棄,B3年以上の生死不明,C回復の見込みのない強度の精神病,Dその他婚姻を継続しがたい重大な事由の5つです。これらの5つのうち,最低限,1つは満たす必要がありますが,実務上は,@またはDが大半です。


第191回 : 「婚姻&離婚」(7月17日付掲載)
 婚姻も離婚も,両者の合意があれば,当然に成立します。しかし,裁判手続によって婚姻を強制することはできません。これは,たとえ婚約をしていても同様です。婚約を正当な理由なく破棄すれば,慰謝料等を支払う義務を負いますが,その限度に止まります。これに対し,離婚は,一定の要件(離婚原因)を満たせば,裁判手続によって強制することが可能です。
 なお,離婚を求める裁判は,かつては地方裁判所で取り扱っていましたが,現在は,家庭裁判所で取り扱っています。


第190回 : 「不法行為(10)」(7月14日付掲載)
 民法財産法編(笑)の最後に,説明を省略した特別な不法行為のうち,実務上最も良く登場する使用者責任について補足します。
 何人も,他人のなした不法行為について,その責任を負わされることは,原則としてありません。この例外の1つが,使用者責任と呼ばれる不法行為責任です。すなわち,従業員が使用者(雇主)の事業を執行するに当たり不法行為をなした場合,その従業員が一般の不法行為責任を負うことは当然として,その使用者も,原則として同様の責任を負わされます。この使用者の負う責任が,講学上,使用者責任と呼ばれるものです(ただし,使用者は,その従業員の選任(雇用)及び監督に過失がなかったことを証明すれば,その責任を免れます。)。
 使用者は,従業員を雇うことによって自己の経済活動の範囲を拡げ,そこから利益を得ています。してみれば,その従業員が仕事をなすに当たり不法行為をなし,第三者に損害を与えた場合には,その損害について責任を負わせる,換言すれば,従業員により生じる利益及び不利益は等しく帰属させるのが衡平です。使用者責任の趣旨も,この衡平の理念にあります。


第189回 : 「不法行為(9)」(7月12日付掲載)
 不法行為による被害の回復は,原則として,金銭賠償の方法により行われます。仮に被害者が他の方法を希望しても,加害者が任意にこれに応じない限り,裁判で強制することはできません。
 しかし,例外的に,法律上,金銭賠償以外の方法が認められている場合があります。例えば,名誉等を毀損された場合には,金銭賠償(慰謝料)のほかに,謝罪広告などの方法が認められることもあります(ただし,名誉等を毀損された場合の全てにおいて,謝罪広告などの方法が認められるわけではありません。)。


第188回 : 「不法行為(8)」(7月10日付掲載)
 不法行為により被害者が取得する損害賠償請求権は,他の権利と同様,いつまでも無期限に行使することができるわけではありませんが,不法行為による損害賠償請求権には,その行使可能期間につき,他の権利と異なる制約があります。すなわち,不法行為による損害賠償請求権は,被害者が被害の事実及びその加害者を知ったときから3年が経つと,時効により消滅し,また,不法行為のときから20年が経つと,やはり消滅します(なお,後者の20年間は,消滅時効ではなく,講学上,「除斥期間」と呼ばれているものですが,ここでは言及しません。)。
 このように,不法行為による損害賠償請求権が,他の権利と異なる特別の制約に服する理由は,何時までも権利が行使されない状態が続くと,加害者の立場が不安定になる上,不法行為という予期せぬ事態に関する証拠資料が散らばり,真実の発見が困難になることが挙げられています。


第187回 : 「不法行為(7)」(7月7日付掲載)
 不法行為を受けた被害者が賠償請求の可能な損害には,通常,財産的損害と精神的損害があります。このうち,後者の精神的損害の賠償は,いわゆる慰謝料と呼ばれているものです。慰謝料は,原則として,生命・身体の安全や名誉を侵害されたような場合にのみ認められ,財産を侵害された場合には認められません。換言すれば,財産の侵害については,その損害が金銭的に補償されれば,同時に精神的にも慰謝されると考えられています。
 なお,慰謝料は,被害者自身の生命や身体の安全等が侵害された場合のみ認められるのが原則ですが,生命の侵害(=死亡)などの場合には,被害者の一定範囲の肉親にも,固有の慰謝料が認められることがあります。


第186回 : 「不法行為(6)」(7月5日付掲載)
 第181回の説明のとおり,不法行為には,前回までに説明の一般不法行為と,これとは要件が一部異なる特殊な不法行為があります。
 この特殊な不法行為は,具体的には,民法上,責任無能力者の監督義務者等の不法行為責任,使用者の不法行為責任,注文者の不法行為責任,工作物の所有者・占有者の不法行為責任,動物の占有者の不法行為責任があります。ここでは,列挙された個々の不法行為に立ち入りませんが,これらの特殊な不法行為では,故意または過失の要件が不要とされたり,あるいは,故意及び過失のないことを加害者が証明しなければならないなど,一般の不法行為と一部異なっています。


第185回 : 「不法行為(5)」(7月3日付掲載)
 前回までの説明のとおり,一般の不法行為の要件は,要旨,@権利ないし利益の侵害,A違法性,B故意または過失,C因果関係です。@は,換言すれば,損害の発生となります。そして,裁判では,これらの要件は,いずれも,損害の賠償を求める被害者の方で証明しなければならず,事案によっては,大きなハードルとなります。
 なお,事案によっては,債務不履行に基づいても,また,不法行為に基づいても,損害の賠償を求めることができる場合があります。例えば,医療ミスを理由に損害の賠償を求める場合,医療契約(これは委任契約または準委任契約と解されています。)上の債務の不履行を理由としても,また,生命あるいは身体の安全という利益の侵害による不法行為を理由としても,損害の賠償を求めることが可能です。債務不履行の場合,不法行為の故意または過失という要件(これは,内心の問題ですので,主観的要件とも言います。)に相当するものとして,帰責事由というものがありますが,この帰責事由については,加害者の方で,帰責事由のないことを証明しなければなりません(第145回参照)。すなわち,不法行為と債務不履行とでは,主観的要件の証明責任が逆になっています。


第184回 : 「不法行為(4)」(6月30日付掲載)
 違法に他人の権利や利益を侵害しても,侵害者に故意または過失がなければ,不法行為は成立しません。ここに,故意とは「わざと」ということであり,過失とは「不注意で」ということです。
 さらに,厳密には,因果関係も必要です。すなわち,故意または過失による侵害行為と,権利や利益の侵害という結果との間に,因果関係も必要です。換言すれば,故意または過失による侵害行為がなくても,同じ結果の発生が避けられなかった場合には,原則として不法行為は成立しません。このことは,実務上,医療事故を巡る裁判などで,しばしば問題となります。


第183回 : 「不法行為(3)」(6月28日付掲載)
 他人の権利や利益を侵害しても,それが違法でなければ,不法行為は成立しません。違法とは,形式的には,法律に違反することですが,それでは循環論法(笑)ですので,実質的には,社会的相当性を逸脱することです。
 法律は社会的相当性の集積ですので,通常は,法律に違反すれば,すなわち,実質的にも違法となりますが,例えば,建築の自由と日照権などのように,権利同士の衝突する場面では,一方の権利が他方の権利を侵害しても,社会的にやむを得ないとみられ,実質的には違法と認められないこともあります。


第182回 : 「不法行為(2)」(6月26日付掲載)
 不法行為は,他人の権利や利益を侵害した場合に成立します。この利益とは,法律上の利益でなければならず,単なる事実上の利益では足りません。もっとも,法律上の利益と事実上の利益の境界は必ずしも明瞭ではなく,また,時代や国民意識の変化とともに変わりうるもので,昔は事実上の利益と考えられていたものが,権利意識の高揚とともに,法律上の利益と認められるようになることもあります。


第181回 : 「不法行為(1)」(6月23日付掲載)
 他人の権利ないし利益を違法に侵害することを不法行為と言い,不法行為者は,権利ないし利益を侵害されて損害を被った被害者に対し,その損害を賠償する責任を負います。
 不法行為は,民法上,一般の不法行為と,その要件が一部異なる特別な不法行為とに分かれます。次回以降,順次説明します。


第180回 : 「不当利得(2)」(6月21日付掲載)
 利益を得た者が,不当利得として返還しなければならない利益の範囲は,その者が法律上の原因のないことを知っていたかどうかによって異なります。
 すなわち,法律上の原因のないことを知らなかった場合は,現在利益を受けている限度で返還すれば足ります。逆に言えば,利益を得た後で使ってしまった分があれば,その分は返還義務を負わず,仮に全部使っていれば,全く返還義務を負いません。これに対し,法律上の原因のないことを知っていた場合は,得た利益の全部を返還しなければならないこと(使ってしまった分があれば自腹を切る必要があります。)はもとより,その利益に利息(年5分)を付けて返還しなければならず,さらにそれでも償いきれない損失があれば,その損失も賠償しなければなりません。


第179回 : 「不当利得」(6月19日付掲載)
 契約などの法律上の原因がないのに,一方の損失により他方が利益を得ている場合,これを不当利得と言い,損失を受けている者は,利益を得ている者に対し,その返還を求めることができます。抽象的に言うと分かりにくいですが,例えば,甲が乙に対して契約に基づきお金を支払ったところ,後日何らかの理由によりその契約が失効したような場合です(もっとも,このような場合の多くは,失効した契約関係の清算として返還を求めることができますので,わざわざ不当利得という概念を持ち出す必要はありませんが。)。
 最近は,消費者金融会社などから借金をした者が過剰に利息を支払い,その結果,既に元金を超えて過払いになっているとして,過払分の返還を求める裁判が多いですが,これも,不当利得の登場する一例です。


第178回 : 「事務管理」(6月16日付掲載)
 他人のために,法律上義務がないのに,その他人の事務を処理することを事務管理と言います。例えば,留守宅の隣家で火災が発生した場合に,その消火活動にあたる場合などがこれにあたります。事務管理によって,その他人に対し,報酬の支払いを求めることはできませんが,事務管理者が費用を負担した場合には,その費用の支払いを求めることはできます。


第177回 : 「和解契約」(6月14日付掲載)
 和解契約は,紛争を互いに譲歩することによって解決する契約のことを言います。交通事故などにおける,いわゆる示談契約などがこれにあたります。和解は,裁判所の訴訟手続においてなされることもありますが,この訴訟上の和解は,原則として判決と同じ効力を持ちます。


第176回 : 「委任契約(3)」(6月12日付掲載)
 委任契約において報酬を支払う旨の合意がなされている場合,委託された事務の処理が途中で頓挫して終了しても,受任者に責任のない限り,受任者は,既に処理した事務の割合に応じた分の報酬を請求することができます。これは,最終的に仕事を完成させなければ原則として報酬を請求することができない請負契約(第171回参照)と大きく異なる点です。
 「受任者に責任のない限り」ですので,委任者に責任がある場合は勿論,委任者及び受任者のいずれにも責任がない場合(天災地変など)にも,処理の割合に応じた報酬を請求することができます。


第175回 : 「委任契約(2)」(6月9日付掲載)
 事務処理の委託を本質とする委任契約は,当事者(=委任者&受任者)間の信頼関係がとても強く求められ,お互いに相手方の個性を重視しています。そのため,例えば,当事者の一方が死亡すると,その時点で委任契約は原則として当然に終了し,(第三者である)相続人には引き継がれません。また,委任者は,原則として,(例えば,受任者が信頼できなくなった場合などには)何時でも委任契約を解約することができます(ただし,その際,受任者の被る損害を賠償しなければならないこともあります。)。


第174回 : 「委任契約(1)」(6月7日付掲載)
 委任契約は,法律行為に関する事務を他人に委託する契約のことを言います(なお,法律行為に関する事務以外の事務を他人に委託することを「準委任契約」と言います。以下,委任契約という場合は,準委任契約も含めます。)。不動産業者に売買の仲介を依頼すること,弁護士に訴訟行為を依頼すること,会社の取締役になることなどは,いずれも委任契約(または委任契約を含む契約)となります。
 現代社会の実情にはそぐわないですが,委任契約は,民法上,原則として無報酬と定められており,特に合意のない限り,受任者は,委任者に対して報酬を請求できません。


第173回 : 「雇用契約」(6月5日付掲載)
 雇用契約は,雇用者が被用者(労働者)から労働力の提供を受け,これに対する報酬を支払うことを約束する契約のことを言います。
 雇用契約は,歴史的に,年少・女子労働者の過酷かつ搾取的な労働条件や差別的な労働条件の問題に直面してきたため,労働者保護の観点から,労働基準法などの民法以外の法律により,大幅に規制が強化されています。


第172回 : 「請負契約(2)」(6月2日付掲載)
 請負契約における注文者は,請負人が仕事を完成させるまでの間であれば,何時でも契約を解除することができます(ただし,解除により請負人が被る損害は賠償しなければなりません。)。通常,契約を一方的に解除するためには,相手方に債務不履行のあることが必要ですが,注文者の上記解除権は,請負人に債務不履行がなくても可能で,特にその他の理由も必要でありません。これも,専ら注文者のためにその初期の仕事を完成させるという請負契約の特殊性によるものです。


第171回 : 「請負契約」(5月31日付掲載)
 請負は,注文者が請負人に対して仕事の完成を依頼し,これに対する報酬を支払うことを約束する契約のことを言い,建物の建築工事や印刷物の印刷などがこれにあたります。
 請負契約は,仕事の完成を本質としていますので,請負人が幾ら労力を費やしても約束の仕事を完成させるに至らなければ,原則として,所定の報酬を請求することはできません。この点は,後日説明の委任契約と大きく異なります。


第170回 : 「賃貸借(10)」(5月26日付掲載)
 賃貸借契約のような契約は,当事者間の法律関係が一定期間継続することを本質的に予定しています。これに対し,売買契約のような契約においては,当事者間の法律関係は,基本的に刹那的です(これは,スーパーや書店で買物をするときのことを考えれば分かりやすいでしょうか−レジでの品物とお金の受渡しで即時終了です−。)。
 法律関係が一定期間継続する以上,そうでない場合に比べ,お互いに,相手方の信頼度が重要視されるようになり,その信頼関係が契約の基礎に置かれるようになります。また,そうである以上,その信頼関係が壊れた場合には,契約関係の存続の是非が問われることも,自然の事柄です。第164回,第165回及び第169回でも触れましたが,賃借権の無断譲渡や無断転貸が禁止され,これに違反すると原則として契約の解除原因になるのも,賃借人のそのような行為が,賃貸人との間の信頼関係を破壊するものであると,通常考えられるためです。
 このような継続的関係における信頼関係の問題の考え方は,賃貸借契約以外の継続的な契約にも及ぼされています。


第169回 : 「賃貸借(9)」(5月24日付掲載)
 第164回の無断転貸と同じように,賃借人が賃貸人に無断で賃借権を第三者に譲渡することは,民法により禁止されており,これに違反すると,賃貸借契約を解除される理由となり得ます。賃貸人は,新規に賃貸借契約を締結するにあたり,通常,賃借を希望する人が信頼できるかどうかを判断の一材料にしていますので,その信頼を法的にも保護するためです。
 なお,土地の賃貸借契約を締結した賃借人が,その地上に建物を建築した後,その建物を第三者に譲渡すると,土地の賃借権も一緒に譲渡したものと取り扱われますので,建物の譲渡にあたり,予め土地賃貸人の承諾を得ておく必要があります。ただし,土地の賃貸人が正当な理由なく承諾を拒むような場合には,賃借人は,借地借家法に基づき,裁判所に対し,賃貸人の承諾に代わる許可を求める裁判を起こすことができます。


第168回 : 「賃貸借(8)」(5月22日付掲載)
 土地や建物の賃貸借契約の締結の際には,賃借人から賃貸人に対して「敷金」と呼ばれるお金が交付されることがままあります。この敷金は,賃貸借契約中に賃料の不払いや目的物の破損による損害等の生じた場合に,これを填補するために授受されるものです。敷金が授受されている場合,賃貸借契約終了時に,賃料の不払いや目的物の破損による損害等が生じていれば,その支払いに優先的に充てられ,なお残額があれば,賃貸人から賃借人に対して返還されます。
 敷金によって支払われるべき損害等があるかどうかは,通常,賃貸借契約が終了し,土地や建物が明渡しが完了することによって,最終的に確定します。そのため,賃借人が敷金(の残額)の返還を求めることができるのは,判例上,明渡しの完了時とされています(学説上は,賃貸借契約の終了時という考え方もあります。)。

註:前回までの説明で登場した借地借家法は,土地の賃貸借契約の全てに適用されるわけではありません。正確には,土地の賃貸借契約のうち,地上建物の所有を目的とした賃貸借契約に限って,適用されます。したがって,例えば,青空駐車場として利用することを目的とした土地賃貸借契約には,適用されません。なお,ゴルフ場のように,建物所有の目的なのかどうかが微妙な事案もあります。


第167回 : 「賃貸借(7)」(5月19日付掲載)
 借地借家法の規定により,前回説明の民法の原則は,要旨,次のとおり修正されています。
【土地の賃貸借契約の場合】
1.賃貸借契約の期間は,最低でも30年間としなければならず,仮にこれを下回る期間を定めても,無効です(その場合,自動的に期間は30年間とされます。)。
2.期間の満了を迎えるにあたり,賃貸人が契約の継続を拒否しても,正当な理由がない限り,その拒否は無効で,契約が更新されます。
【建物の賃貸借契約の場合】
1.1年未満の期間を定めても無効とされ,期間の定めのない賃貸借契約となります。
2.土地の場合と同様,期間の満了を迎えるにあたり,賃貸人が契約の継続を拒否しても,正当な理由がない限り,その拒否は無効で,契約が更新されます。期間の定めのない場合において,賃貸人が解約により契約を終了させるときも,同様に,正当な理由がない限り,許されません。

 なお,特別な事情により,特に一時的な使用であることを約束した場合には,借地借家法の上記の規定は適用されません。


第166回 : 「賃貸借(6)」(5月17日付掲載)
 賃貸借契約には,通常,賃借の期間というものが定められます(ただし,期間の定めのないこともあり得ます。)。そして,民法上は,契約で定められた期間が満了すれば,原則として,賃貸借契約は終了します。しかし,この原則をそのまま貫くと,例えば,賃貸人が契約の継続と引換えに賃料の増額を迫るなど,立場の弱い賃借人が不当に不利益を受けるおそれがあります。
 そこで,賃借人の立場を強化するため,次回説明のとおり,第163回にも登場した借地借家法という法律により,土地及び建物の賃貸借契約については,上記の原則に大きな修正が加えられています。


第165回 : 「賃貸借(5)」(5月15日付掲載)
 賃借人は,賃貸借契約に基づき,賃料の支払債務など,各種の債務を負います。もし,賃借人に,これらの債務の不履行があれば,債務不履行の一般原則(第143回〜第146回参照)に従い,賃貸人は,賃貸借契約を解除することができます。しかし,仮に債務の不履行があっても,その背信性が低いと見るべき特別の事情があるときは,例外的に,賃貸人からの解除が否定されることもあります。これを講学上「信頼関係破壊論」などと言います。
 世上の賃貸借契約書には,「賃料の支払いを1回でも怠れば直ちに解除される」というような定めが置かれていることがあります。しかし,このような定めの下で,仮に賃料の支払いを1回怠っても,上記の信頼関係破壊論により,賃貸人からの解除が否定されることもあります(むしろ,1回程度の遅滞であれば,過去にも同様の遅滞を度々繰り返していた等の事情でもない限り,背信性が高くないとして,賃貸人からの解除が否定されるケースも少なくないと思います。)。
 なお,信頼関係破壊論は,前回の無断転貸による解除の場合にも同様に当てはまりますので,仮に無断転貸がなされても,その背信性が低いと見るべき特別の事情があれば,賃貸人からの解除が否定されることもあります。


第164回 : 「賃貸借(4)」(5月12日付掲載)
 賃借人は,賃貸人の承諾なしに,目的物を第三者に独立して使用させることはできません。いわゆる「無断転貸」は民法により禁止されており,これに違反すると,賃貸借契約を解除される理由となり得ます。世上,賃貸借契約の契約書には,この無断転貸を禁止する旨の定めが置かれていることが通例ですが,これは,民法上当然の事柄を記載したものであり,契約書にこの定めがないからといって,無断転貸が許されることにはなりません。
 なお,「転貸」という言葉のニュアンスからは,第三者に使用させても,賃料(転貸料)を取らなければ問題ないように思われるかもしれませんが,民法上は,賃料(転貸料)を取るかどうかは関係せず,ただで使用させても,解除の理由になり得ます(ただし,後日説明するとおり,悪質性が低い場合には,賃貸人からの解除が否定されることもあります。)。


第163回 : 「賃貸借(3)」(5月10日付掲載)
 前回の説明のとおり,民法上,賃借人が賃借権を目的物の新所有者に対抗するためには,登記をするしかないにもかかわらず,賃貸人には原則としてその義務がないため,賃借権は脆弱なものでした。そこで,賃借人の保護の必要性が社会的に謳われるようになり,そのために定められた法律が,借地法及び借家法(現在の借地借家法)です。
 まず,土地の賃貸借契約については,賃借人が土地上に建物を建築して,その建物の保存登記をすれば(−既に建物が建築されている場合には,建物の移転登記をすれば−),賃借人は,土地の賃借権を土地の新所有者に対抗できることになりました。また,建物の賃貸借契約については,賃借人が建物の引渡しを受ければ,賃借人は,建物の賃借権を建物の新所有者に対抗できることになりました。前者につき,建物の保存登記または移転登記には,土地賃貸人の協力は不要ですし,後者につき,建物の引渡しは賃貸人の義務ですので,これらの法律により,賃借人が賃借権を新所有者に対抗するためには,賃貸人の任意の協力が必要でなくなり,賃借人の地位が大幅に強化されました。


第162回 : 「賃貸借(2)」(5月8日付掲載)
 民法の原則によれば,賃貸借契約後に目的物の所有者が交替すると,賃借人は,新所有者に対して自己の賃借権を対抗することができず,新所有者から求められれば,目的物を返還しなければなりません(賃借人は,旧所有者=賃貸人に対し,債務不履行を理由に損害賠償等を請求することになります。)。したがって,例えば,土地の賃貸借契約後,賃借人が地上に建物を建築しても,土地が売買され,新所有者から土地の明渡しを求められると,賃借人は,建物を取り壊して更地にして明け渡さなければならず,このような土地の売買は,(−売買によって建物が倒壊することから−)俗に「地震売買」と呼ばれ,不当に土地の明渡しを求める便法として悪用されることもありました。
 このような弊害は,賃貸借契約後に賃借権の登記をすれば,防ぐことが可能ですが,売買契約の売主などと異なり,賃貸人には,特約のない限り,登記の義務はないと解されているため,賃借人の方から登記を求める権利はなく,実際にも,賃借権の登記がなされることは,まずありません。
 そこで,このような問題を防ぐために登場したのが,次回説明予定の借地借家法(以前は,借地法と借家法という2つの法律に分かれていましたが,現在は統合されています。)です。


第161回 : 「賃貸借(1)」(5月1日付掲載)
 賃貸借は,対価を支払って物を借りる契約のことを言い,この対価のことを賃料と言います。社会生活では,売買契約に並んで馴染みの深い契約です。
 賃借人は,賃貸人(通常は所有者ですが,所有者でなければ賃貸人になれないというわけではありません。)と比べると,歴史的に弱い立場にあります。そのため,特に土地や建物の賃貸借については,後日の説明のとおり,賃借人の地位は,借地借家法という法律により大幅に強化されています。


第160回 : 「消費貸借(4)」(4月28日付掲載)
 前回の説明のとおり,貸金契約で合意の可能な利率は,利息制限法という法律により制限されていますが,貸金業規正法という法律の定める一定の要件を満たす場合には,例外的に,この制限を越える利息も有効とされることがあります。これは,講学上,「みなし弁済」あるいは「グレーゾーン利息」などと言われているものです。
 ただし,この「みなし弁済」に関する規定は,現在,廃止も含めて国会で議論されていますので,いずれ無くなる可能性があります。


第159回 : 「消費貸借(3)」(4月26日付掲載)
 前回の説明のとおり,貸金契約で利息を取るためには,利息を支払う旨の合意が別途必要です(ただし,商人同士の貸し借りの場合は別ですが,ここでは言及しません。)。利息を支払う旨の合意がなされる場合は,通常,併せて利率の合意もなされますが,合意の可能な利率には,利息制限法という法律により貸金額に応じた一定の上限があり,この上限を超える利率は,原則としてその限度で効力を否定されます。通常弱い立場にある借主を保護するため,民法上の大原則である契約自由の原則が制限されているのです。 


第158回 : 「消費貸借(2)」(4月24日付掲載)
 社会で通常問題となる消費貸借契約は,金銭消費貸借契約,すなわち貸金契約ですので,以後,貸金契約を念頭に説明します。
 貸金契約では,通常,「○月×日までに返済する」というように,返済期限の定められる場合が多いですが,返済期限の定めは必須ではありません。具体的な返済期限の定められなかった場合は,貸主が返済を催促し,その催促から相当期間の経過したときに,返済期限が到来することになります(この相当期間の長短は,貸付額や貸主・借主側の事情,貸付の経緯等の具体的な事情によって左右されますが,通常,数日から2週間程度となることが多いでしょうか。)。また,貸金契約では,当然には利息は発生せず,利息が発生するためには,利息を支払う旨の合意が別途必要です。


第157回 : 「消費貸借(1)」(4月21日付掲載)
 消費貸借とは,他人から物を借り,その物と同種・同等・同量の物を返還する契約のことを言います。抽象的・一般的に定義すると難しそうですが,要は,貸金契約(=金銭消費貸借契約)がその一例です。
 使用貸借契約や(後日説明の)賃貸借契約が,借りた物をそのまま返還する契約であるのに対し,消費貸借契約は,「消費」という言葉のとおり,借りた物自体は使ってなくなってしまう点に違いがあります。


第156回 : 「使用貸借(2)」(4月19日付掲載)
 無償で他人の物を借りる使用貸借契約は,借主にとって恩恵的な側面があるため,借主の立場は,賃貸借契約の借主の立場に比べ,かなり弱いものになっています。例えば,借主の保護のために定められている借地借家法という法律は,使用貸借契約には適用されません。また,使用貸借契約の目的物の所有者が交替すると,借主は,新しい所有者に対して使用貸借契約に基づく権利を対抗することはできず,目的物を返還しなければならなくなります。


第155回 : 「使用貸借(1)」(4月17日付掲載)
 使用貸借とは,他人から無償で物を借りる契約のことを言います。賃貸借は,有償,すなわち賃料を支払って物を借りる契約のことを言いますが,使用貸借契約では,当然ながら賃料の取り決めはありません。
 資本主義社会の下では,対価なしに他人の物を借りることは例外的ですので,使用貸借契約は,通常,親子の間や,会社と代表者または従業員の間など,一定の親しい関係のある者の間で締結されることが多いと言えます。また,そのため,使用貸借契約は,契約書等の書面を作成して締結されることは必ずしも多くなく,特に親子の間のような場合は,暗黙裡のうちに締結されていると認められることが少なくありません。


第154回 : 「贈与(3)」(4月14日付掲載)
 贈与には,死因贈与と呼ばれる類型があります。言葉のとおり,贈与者の死亡に因って効力が生じる贈与です。
 死亡によって財産が移転する点では,遺言による贈与=「遺贈」に似ていますが,死因贈与が契約であるのに対し,遺贈は契約ではなく(単独行為と呼ばれ,受贈者との間の合意は不要です。),また,両者には,その他にも,細かい効果の点で少なからず相違があります。


第153回 : 「贈与(2)」(4月12日付掲載)
 一般に,契約は,契約書を作成して締結される場合と,口約束で締結される場合がありますが,口約束による贈与契約は,その履行前であれば,贈与者及び受贈者は,これを自由に取り消すことができます。全部または一部が履行されてからでは取り消すことができませんので,例えば,土地や建物の贈与契約で,これを受贈者に引き渡したり,登記を移転したりしてからでは,取り消すことはできません。


第152回 : 「贈与(1)」(4月10日付掲載)
 贈与とは,対価なしに財産を譲渡することを言います。贈与も,1つの契約ですので,贈与者と受贈者の合意によって成立します。
 資本主義社会の下では,対価なしに財産が移転することは例外的ですので,贈与は,通常,親族など一定の(親しい)身分関係のある者の間でなされたり,契約外の背後に特別な理由のあったりする場合が多いと言えます。また,贈与契約は,このような特殊性のゆえに,法律上,通常の契約では認められない特別な取消権が定められています(次回説明予定)。


第151回 : 「同時履行の抗弁(権)」(3月29日付掲載)
 例えば,売主甲と買主乙との間で売買契約が成立している場合,甲は乙に対して売買目的物を引き渡す債務を負い,一方,乙は甲に対して売買代金を支払う債務を負いますが,甲及び乙のいずれも,相手方がその債務を弁済するまでは,自己の債務の弁済を拒むことができます。換言すれば,両債務は同時に弁済されるべきであり,甲及び乙のいずれも,自己の債務のみの一方的な弁済を求められることはありません。これを同時履行の抗弁(権)と言い,売買契約のような双務契約一般に認められるものです。
 ただし,同時履行の抗弁(権)が認められるのは,契約上,債務の弁済時期について特に約束のない場合ですので,契約によりそれぞれの債務の弁済時期が定められているときは,先に債務の弁済時期の到来する者は,相手方に対して同時履行の抗弁(権)を主張して,自己の債務の弁済を拒むことはできません。
 なお,上記の例で,甲が乙に対して売買代金の支払いを求める裁判を起こし,その裁判で,乙が同時履行の抗弁(権)を主張した場合,判決は,「乙は,甲に対し,□□(=売買目的物)の引渡を受けるのと引換えに,代金○○円を支払え。」という内容になります(これを引換給付判決と言います。)。