第50回 : 「伝聞法則(1)」(7月6日付掲載)
 刑事裁判に独特の証拠調べのルールとして,最も重要なものは,間違いなく伝聞法則です。予めお断りしておきますと,この伝聞法則を正確に理解することはとても難しいことです。しかし,刑事裁判の審理手続を理解するためには,決して避けては通れない法則でもあります。
 伝聞法則を定義すると,反対尋問を経ていない供述証拠の証拠能力を原則として排除する主義となります。当然ながら,ここに登場する「反対尋問」「供述証拠」「証拠能力」という単語の意味合いを理解しなければ,伝聞法則自体を理解することはできませんが,これらの単語は,通常,普段の日常生活で用いられる用語ではありません。しかも,更に難しいことに,この伝聞法則には,一方で,数多くの例外が定められており,これらの例外も併せて理解しなければ,伝聞法則の全貌を理解したことにはなりません。
 そこで,とりあえず,次回以降,上記単語等から順次説明していく予定です。


第49回 : 「立証責任(2)」(7月4日付掲載)」
 刑事裁判においても立証責任という問題があります。先日の第25回では,主に民事裁判を念頭に説明しましたが,今回は刑事裁判についてです。
 刑事裁判上,立証責任は,極僅かの例外を除き,全て検察官が負っています。検察官は,被告人が起訴した犯罪の犯人であることを,捜査によって収集した手持ちの証拠によって証明しなければなりません。このこと自体は,罪状認否で被告人が自ら犯人であることを認めた場合であると否認した場合であるとを問いません(第30回で説明したとおり,刑事裁判では,被告人が自白したからといって,検察官が立証責任そのものを免れることはありません。)。しかし,被告人が自ら犯人であることを認めるか否かによって,証拠調べの手続が大きく異なってきます。それは,刑事裁判には,証拠調べの手続上,民事裁判にはない独特の厳しいルールがあるためです。このルールについては,次回以降に説明します。


第48回 : 「罪状認否」(7月1日付掲載)
 俗に罪状認否とは,刑事裁判手続の始めに,被告人が,起訴された事件の内容(事実関係)について,認める,否認する,あるいはその他の意見を陳述する手続を言います。ただし,被告人には黙秘権がありますので,沈黙ということもあり得ます。
 刑事裁判手続では,冒頭で,人定質問,次いで検察官により起訴状の朗読が順次行われますが,その後に罪状認否の手続が行われます。ここで,被告人が起訴事実を認めるか否かによって,以後の裁判手続の流れが大きく異なってきます。


第47回 : 「人定質問」(6月29日付掲載)
 刑事裁判の期日に,裁判所に出頭した者が起訴状に記載された被告人に間違いがないかどうか確認する手続を言います。
 通常は,裁判官が出頭者に対し,氏名・住所等を質問することによって確認しますが,出頭者が捜査段階から氏名・住所等を黙秘しているような場合には,これに代えて,性別,身体の特徴,見かけの年齢,拘置所等における留置番号及び顔写真等によって確認します。


第46回 : 「弁護人」(6月27日付掲載)
 刑事裁判で,被告人のために,その権利・利益を擁護する任務を負う者を言います。被告人は,通常法的知識に乏しく,また身柄事件では自らは自由に活動することができないため,弁護人がこれらを補うことになります。
 弁護人は,原則として弁護士の中から選任されますが,被告人が自ら選任する私選弁護人と,被告人が貧困等により自ら弁護人を選任できない場合に裁判所が選任する国選弁護人がいます。
 なお,刑罰の重い犯罪(具体的には,死刑・無期刑または長期3年以上の刑が定められている犯罪)については,裁判手続上,必ず弁護人が必要となり,弁護人がいないと審理できません。このような犯罪の事件を必要的弁護事件と言います。


第45回 : 「公訴時効」(6月24日付掲載)
 犯罪行為から一定の期間(年数)が経過することにより,以後,原則として,検察官による起訴を許さないとする制度です。
 何故,時間の経過という一事により,本来処罰されるべき犯罪行為の起訴が許されなくなるのか,その制度理由については,学説上,諸説があり,例えば,『長期間の経過により,犯罪に対する社会全体の処罰感情が弱まるため』,『長期間の経過により,犯罪に関する証拠が散逸してその収集が難しくなり,的確な証拠に基づく適正な裁判の実現が困難になるおそれがあるため』,『捜査機関の有限の捜査能力を有効に活用するため』,などの考え方があります(もっとも,これらの考え方は,互いに排斥し合うものではありません。)。
 公訴時効の完成後は,たとえ犯人が自首しても処罰することができません。また,公訴時効の完成を見過ごして起訴し,審理の過程でこれが明らかになると,「免訴」という判決がなされます。


第44回 : 「被告人」(6月22日付掲載)
 被告人とは,検察官から起訴された者を言います。被疑者は,起訴されると,以後,被告人となり,例えば,国選弁護人請求権や保釈請求権などの権利が新たに認められるようになります。被疑者の段階で勾留されていた被告人は,起訴後も,原則として,そのまま勾留された状態が続きますが,この起訴後の勾留は,裁判所が執行するものであり,捜査機関の執行するそれまでの勾留とは,法的な性格が異なります。
 起訴は検察官が起訴状を裁判所に提出することにより行われますので,通常,被告人が誰かは起訴状を見れば明らかです。しかし,特殊なケース,例えば,AがBの氏名を騙っていた場合,あるいは,Aの身代わりにBが裁判所に出頭して審理を受けた場合などには,被告人が一体誰なのかが問題となることもあります。


第43回 : 「起訴猶予」(6月20日付掲載)
 前回のとおり,起訴裁量主義の下では,検察官は,捜査の結果犯罪事実が認められると判断する場合であっても,犯罪の軽重,動機,手段,結果,被害の大小,被害回復の措置の有無,被疑者の年齢,生育歴,前科前歴,その他の一切の事情を総合的に考慮し,被疑者を起訴しないことが許されます。このような理由による不起訴の措置を起訴猶予と言います。
 起訴猶予は,あくまでも検察官という行政官の判断にすぎず,例えば無罪判決のような効果は法律上認められません。そのため,検察官は,ある犯罪事実について,一旦起訴猶予としても,後日改めて起訴することは可能です(ただし,そのような起訴は実務上極めて稀です。)。


第42回 : 「起訴」(6月17日付掲載)
 検察官が,公の利益の代表者として,裁判所に対し,特定の犯罪事実についての審理を求めることを言います。
 起訴については,日本の制度上,起訴独占主義及び起訴裁量主義という大きな特徴があります。起訴独占主義は,被害者その他の私人に起訴の権限を認めず,検察官のみにこれを与える制度を言います。換言すれば,私訴が認められず,公訴のみが認められますので,日本の制度上は,起訴=公訴提起となります。また,起訴裁量主義(起訴便宜主義とも言います。)は,起訴するかどうかにつき検察官に判断の余地を認め,捜査の結果犯罪事実が認められる場合であっても,その他の事情を考慮して被疑者を起訴しないこと(起訴猶予)を許容する制度を言います。


第41回 : 「勾留延長」(6月15日付掲載)
 勾留の期間は,原則として10日間ですが,やむを得ない理由がある場合には,捜査機関からの請求を受けた裁判所がこれを認めることにより,更に合計10日間の限度で,その期間が延長されます。やむを得ない理由としては,通常,事案が複雑であるとか共犯者が多数いることなどにより,捜査機関が相応の努力をしても,なお必要な捜査を完遂させる時間が足りないこと等が挙げられます。
 なお,勾留延長の当否の判断は書面審査です。勾留時の勾留質問のような手続は予定されていません。


第40回 : 「勾留質問」(6月13日付掲載)
 捜査機関から被疑者の勾留手続の請求を受けた裁判所が,その当否の判断資料とするため,被疑者から直接弁解等を聴くための手続です。勾留の請求をされた被疑者は,裁判所に同行され,裁判官から,犯罪事実の真否や弁解の有無等を確認されます。
 勾留質問は,捜査機関から独立した裁判所が,初めて被疑者から直接弁解等を聴く手続として,重要な位置づけにあり,将来の裁判手続で被疑者が犯罪事実を否認して争う場合に,勾留質問の段階で被疑者が如何なる弁解等をしていたかは,被疑者の否認の信用性を判断するための一資料となることがあります。


第39回 : 「勾留」(6月10日付掲載)
 被疑者が逃亡するおそれや犯罪に関する証拠を隠滅するおそれなどがある場合に,これを防止するため,逮捕手続に続いて,捜査機関がその身柄を原則として10日間拘束する手続を言います(ただし,裁判所が執行する勾留もありますが,ここでは除外します。)。上記期間については,やむを得ない理由がある場合は,更に10日間延長されることがあります。捜査機関(検察官)は,この最長20日間の勾留期間中に,必要な捜査を完了し,被疑者を起訴するかどうか決定することになります。
 勾留は,必ず,捜査機関からの請求を受けた裁判官が,被疑者から直接弁解を聴く勾留質問という手続を経てその当否を判断した上で発する勾留状に基づいて執行されます。勾留には,逮捕における現行犯逮捕のような例外は,一切ありません。


第38回 : 「逮捕」(6月8日付掲載)
 被疑者が逃亡するおそれや犯罪に関する証拠を隠滅するおそれなどがある場合に,これを防止するため,捜査機関がその身柄を短期間拘束する手続を言います。逮捕による身柄の拘束は最長72時間しか許されず,捜査機関は,その時間内に,被疑者の勾留手続を請求するか,被疑者を起訴しない限り,被疑者を釈放しなければなりません。
 逮捕は,原則として,捜査機関からの請求を受けた裁判官がその当否を判断した上で発する逮捕状に基づいて執行されますが,現に犯罪が行われている場面で逮捕する場合(現行犯逮捕)などには,この逮捕状は不要です。


第37回 : 「被疑者」(6月6日付掲載)
 ある犯罪事実の犯人として捜査機関から疑われている者を言います。実務上は,通常,起訴される以前の段階を指し,起訴後は,被告人と呼称されます。
 被疑者として捜査機関の捜査を受ける場合,逮捕・勾留されるときと,そうでないときがあり,実務上,前者を身柄事件,後者を在宅事件などと言います。


第36回 : 「仮執行宣言」(6月3日付掲載)
 例えば,被告に金銭の支払を命じる内容の判決が確定すると,原告は,被告が任意に支払わない場合には,この判決に基づき,強制執行,すなわち,国家権力による強制的な金銭の回収を図ることができます。一方で,判決が確定しない間は,原則として,強制執行をすることはできません。これに対し,判決の主文に「この判決は仮に執行することができる。」というように仮執行宣言が付けられていると,判決の確定前であっても,強制執行をすることができるようになります。
 ただし,あくまでも『仮』ですので,例えば,原告が,仮執行宣言に基づいて強制執行をしながら,将来控訴審で逆転敗訴したような場合には,被告に対して損害賠償をしなければならない事態にもなります。
 仮執行宣言は,通常,原告からの申し出に基づいて付けられます(ただし,実務上稀ですが,原告からの申し出があっても,裁判所が相当でないと判断すれば,仮執行宣言が付けられないこともあります。)。


第35回 : 「判決の確定」(6月1日付掲載)
 言い渡された判決について,当事者が控訴等の手続によって最早争えなくなった状態を言います。例えば,第一審判決に対しては,原則として,言い渡されてから2週間以内であれば控訴をすることができますので,民事事件であれば原告及び被告,刑事事件であれば検察官及び被告人(+弁護人)のいずれからも控訴がないまま,この期間が経過すると,第一審判決は確定します(確定判決は,再審という極めて限定された手続によってのみ,これを争うことができます。)。
 判決が確定すると,既判力や執行力などの法律上特有の効力が生じます。


第34回 : 「控訴」(5月30日付掲載)
 第一審の判決について,当事者が上級裁判所に対し,訴訟を続けて自己に不利な内容の判決の取消等を求める不服申立てを言います。地方裁判所の第一審判決に対して控訴があると高等裁判所において,簡易裁判所の第一審判決に対し控訴があると地方裁判所において,それぞれ,第一審判決言渡直前の状態に戻って,訴訟手続が続けられます(すなわち,零からやり直すわけではありません。)。
 控訴をするためには,第一審判決の内容に正当な不服のあることが必要です。したがって,例えば,民事事件の訴訟で全部勝訴の判決を得た原告が控訴をすることはできません。反面,正当な不服のある限り,事実認定上の問題を理由とする場合でも法律解釈上の問題を理由とする場合でも控訴をすることができ,その理由に特別な制約はありません。


第33回 : 「訴えの取下げ」(5月27日付掲載)
 原告は,判決が確定するまでの間は,訴えの全部または一部を取り下げる(撤回する)ことができます。実務上は,訴えの提起後,裁判外で別途話合いが成立したことを理由に訴えの(全部)取下げのなされる場合が多いです。
 訴えの取下げは,被告が例えば準備書面を提出するなどの訴訟活動に入った後は,被告の同意が必要です。これは,被告が本格的な訴訟活動の態勢に入った以上,被告にも原告の訴えの棄却判決を獲得する利益が生じ,この利益が保護に値するためです。
 訴えが取り下げられると,その取り下げられた部分については,初めから訴えがなかったものと扱われます。原告は,原則として,一度取り下げた訴えと全く同じ内容の訴えを再度提起することもできますが,判決言渡後,その確定前に取り下げた場合には,再度の提起は許されません。


第32回 : 「判決」(5月25日付掲載)
 判決は,訴訟における裁判所の最終判断ですが,民事事件の判決と刑事事件のそれとでは,性格の異なる点が幾つかあります。例えば,判決は,通常,「主文」と呼ばれる結論部分とその結論に至った理由部分とからなりますが,民事事件の判決の言渡しは,通常,主文のみしか朗読せず,早いものでは10秒も要しません。これに対し,刑事事件の判決の言渡しは,主文及び理由の双方を読み上げ,大事件ともなると,言渡しの終了までに数時間を要するような場合もあります。また,民事事件の判決は,当事者双方が不出頭でも言い渡されますが(と言うか,実務上,判決言渡期日に当事者が出頭することは寧ろ稀です。),刑事事件の判決は,必ず当事者双方が出頭する中で言い渡されます(例えば,被告人が不出頭であれば,判決言渡期日が延期されます。)。
 なお,民事事件の判決は,言渡し後,判決書の正本が当事者双方の住所宛に送達(郵送)されます(判決言渡期日に出頭した場合には,言渡し後直ちに裁判所の窓口で判決書の正本を受領することも可能です。)。民事事件の判決言渡期日に出頭せずとも,法律上不利益を受けることはありません。


第31回 : 「弁論終結」(5月23日付掲載)
 訴訟の審理手続を終了することを言い,俗に「結審」とも言われます。弁論終結は,当事者の主張及び立証が十分に行われ,裁判所が最終判断をするのに相応しい状態に達したときになされます。弁論終結の際には,通常,民事事件の裁判では,原告及び被告双方から最終準備書面が提出されることが多く(ただし,必須ではありません。),また,刑事事件の裁判では,検察官及び被告人・弁護人双方から最終意見を聴くための手続(論告・弁論)が必ずなされます。
 弁論終結後は,当事者は新たに主張や証拠を追加することができませんが,弁論終結の性格上,これは当然の事理です。ただし,一旦弁論終結がなされても,正当な理由があれば,弁論が再開されることもあります。


第30回 : 「自白」(5月20日付掲載)
 裁判で自白という用語が使われる場合,それは民事事件及び刑事事件の両者で登場しますが,その定義や効果には異なる点があります。すなわち,民事事件にいう自白は,相手方当事者の主張する,自己に不利益な事実を認める旨の陳述を意味し,当事者である原告及び被告の双方についてあり得ますが,刑事事件にいう自白は,犯罪事実の全部または一部を認める旨の陳述を意味し,当事者の一方である被告人についてのみあり得ます。また,その効果の点でも,民事事件において自白がなされると,他方当事者は対象となった事実を証明する必要がなくなりますが,刑事事件において自白がなされても,他方当事者である検察官は犯罪事実の証明責任を免れるものではありません(ただし,被告人が自白していることは有力な証拠となります。)。
 被告人にとってみれば,犯罪事実は,相手方当事者(検察官)の主張する,自己に不利益な事実ですので,自白の定義は,大局的には,民事事件及び刑事事件の双方にほぼ共通ですが,その効果は大きく異なります。それは,民事事件の裁判が相対的真実発見主義(証拠の優劣)を採用していることに対し,刑事事件の裁判が絶対的真実発見主義を採用していることにも由来します。


第29回 : 「証明」(5月18日付掲載)
 多少の誤解を恐れず言えば,訴訟,特に民事訴訟は,証拠の優劣の勝負です。民事訴訟では,自分に有利な事実は,主張するだけでは足りず,それを証拠によって証明しなければならないのが原則です。証明するに十分な証拠を集めることができなければ,結局,その主張は必ずしも裁判所の採用するところとなりません。
 しかし,中には,証拠による証明を必要とせず,主張するだけで足りる事実もあります。これを顕著事実と言います。例えば,『今日は2005年5月18日である。』,『太陽は東から昇る。』などといった,一般人が通常疑いを差し挟むことのない事実です。


第28回 : 「証人尋問」(5月16日付掲載)
 原告及び被告以外の第三者が供述する内容を証拠とするための手続です。証人尋問は,通常,当事者からの申請に基づき,裁判所がその必要性等を判断して採否を決定し,実施されます。証人を申請した当事者による尋問を主尋問,他方当事者による尋問を反対尋問と言いますが,反対尋問の奏功の有無は,弁護士の力量の表れやすい一場面です。
 証人尋問は,あくまで,主張や意見を述べるために必要な事実を確認するための手続であり,証人に自分の主張や意見を突き付けて証人と議論をするための手続ではありません。


第27回 : 「弁論の全趣旨」(5月13日付掲載)
 裁判手続に表れた全ての事情を言い,広い意味での証拠として,裁判所が事実認定をするための拠り所となります。
 弁論の全趣旨は,実務上,例えば,「証拠及び弁論の全趣旨によれば,……の事実が認められる。」などというかたちで登場します。具体的には,ある事実の存否について,原告及び被告双方とも争っていないという事情を弁論の全趣旨として考慮し,その事実の存在を認定する例や,その事実が存在すれば当然あってしかるべき証拠が存在しない,あるいは証拠として提出されていないという事情を弁論の全趣旨として考慮し,その事実の不存在を認定する例などが挙げられます。


第26回 : 「反訴」(5月11日付掲載)
 訴訟を提起された被告が,反対に原告を相手方として,別の訴訟を提起する場合を言います。反訴に対し,元の訴訟を本訴と言います。例えば,請負業者が建物建築請負契約に基づき注文者に請負代金を請求した(請負代金本訴請求事件)場合に対し,注文者が請負業者を相手に建築された建物に瑕疵があることに基づく損害賠償を請求する(損害賠償反訴請求事件)場合です。反訴が提起されると,本訴とともに,同じ1つの手続で審理判断されます。
 本訴及び反訴は必ず同じ当事者間の訴訟となりますが,同じ当事者間であれば常に反訴を提起できるわけでもなく,紛争の基礎が共通であり,一緒に審理することによるメリットがあること等の要件も必要となります。もちろん,反訴の要件を満たさずとも,通常の訴訟として,同じ内容の訴えを提起することは,当然可能です(ただし,その場合には,本訴とは異なる手続で審理判断されます。)。


第25回 : 「立証責任」(5月9日付掲載。なお,同月4日及び6日はお休みでした。)
 ある事実の存否について,これを証明しなければならない責任を言い,全証拠によってもその事実の存否が最終的に不明な場合,立証責任を負う当事者が不利益を受けることになります。例えば,原告が被告に対して売買代金の支払を求め,被告が契約の成立を否定して争っている場合,売買契約の成立の事実については原告が立証責任を負いますので,原告がこの事実を証明できないと,『原告主張の売買契約の成立を認めるに足りる証拠はない。』として,原告の敗訴となります。
 立証責任は,その事実によって法律上利益を受ける当事者がこれを負うことが原則です。


第24回 : 「証拠」(5月2日付掲載)
 厳密に定義しようとすると,実は多義的で複雑なのですが,通常は,裁判所による事実の認定のために供される資料と説明する方が分かりやすいと思います。
 証拠は,通常,文書・検証物・鑑定(意見)・証言及び当事者本人の供述の5つがあります。実務で一般的に登場するのは,文書,証言及び当事者本人の供述です。前回の説明のとおり,民事訴訟は,当事者が提出する証拠に基づいて審理・判断するのが大原則であり,裁判所が勝手に証拠を収集することはありません。
 なお,ある証拠を信用するかどうか,また,ある証拠からどのような事実を認めるかなどの点については,特定の法則はなく,裁判所の自由な判断に委ねられています(自由心証主義)。


第23回 : 「弁論主義」(4月29日付掲載)
 主張及び証拠の提出を当事者の権限及び責任とする主義を言い,民事訴訟の大原則です。
 民事訴訟では,当事者が,その権限と責任において,互いに,自己に有利な主張及び証拠を提出し,相手方の主張及び証拠を弾劾しなければならず,裁判所が勝手に主張を補充したり証拠を収集したりすることはなく,またそれは許されていません。
 その結果,本来は勝訴すべき当事者が,その主張や証拠の提出が稚拙なために敗訴するということは,理論上あり得ます。


第22回 : 「準備書面」(4月27日付掲載)
 当事者が,事件について,自分の言い分を主張したり,相手方の主張に対して反論したりするため,裁判所に提出する書面を言います。
 原告及び被告双方から提出される訴状・答弁書及び準備書面を通じて,当事者間に争いがある事実と争いのない事実を選別し,前者の事実について,当事者が互いに,自己に有利な主張及び証拠を提出し,相手方の主張及び証拠を弾劾する,という流れが民事訴訟の一般的な審理手続です。


第21回 : 「期日」(4月25日付掲載)
 裁判所を含めた当事者が集合して事件に関する訴訟行為等を行う日時を言い,口頭弁論期日(証拠調期日),和解期日,判決言渡期日などの種類があります。
 期日の指定は裁判所の権限で,通常,裁判所が当事者の都合を確認しつつ定めます。当事者は,原則として,一度指定された期日については,法律の定める一定の理由(天災,重篤な病気,吉凶事など)がない限り,その変更を求めることができません。ただし,法律の定める理由がなくても,差支えに期日変更の希望のある場合には,まずは必ずその旨裁判所に連絡すべきであり,無断欠席だけは避けなければなりません。


第20回 : 「答弁書」(4月22日付掲載)
 被告が裁判所に最初に提出すべき書面で,原告の請求を認めるかどうか,訴状に記載された原告主張の事実関係を認めるかどうかなどが記載されます。
 答弁書の内容を書面ではなく口頭で主張することも可能ですが,原告の請求を争う被告としては,第1回期日に先立ち裁判所に予め答弁書を提出するか,または,第1回期日に裁判所に出席して,少なくとも原告の請求を争う態度を表明しなければならず,そのいずれも怠ると,原則として,原告の請求をそのまま認容する内容の判決がなされることになります(欠席判決)。


第19回 : 「請求の原因」(4月20日付掲載)
 請求の趣旨に表れた請求権の存在を基礎づける事実を言います。例えば,貸金の返済を求める訴訟であれば,貸金返還請求権の存在を基礎づける事実,すなわち,大雑把には,貸付の事実と返済期限の到来の事実です。ある請求についてどのような事実が請求の原因となるかは,法律家になるのであれば,勉強して学ばなければなりません。
 請求の原因は,民事訴訟を提起した原告が,原則として証拠によって証明しなければならない責任(立証責任)を負う事実でもあります。


第18回 : 「請求の趣旨」(4月18日付掲載)
 民事訴訟をもって裁判所の審理判断を求める請求の内容そのものを言います。例えば,貸金の返済を求める訴訟であれば「被告は,原告に対し,金○○万円を支払え。」,離婚を求める訴訟であれば「原告と被告とを離婚する。」などとなります。
 請求の趣旨は,いわば原告が民事訴訟を通じて企図する目標であり,裁判所の最終判断の対象でもありますので,これがなければ始まりません。


第17回 : 「訴状」(4月15日付掲載)
 民事訴訟を提起する際に原告が裁判所に提出する書面を言います。民事訴訟の提起は,原則として,必ず書面でしなければなりません(例外として,簡易裁判所については口頭でも可能です。)。
 訴状には,民事訴訟法等で定める一定の事項を必ず記載しなければならず,その記載を欠くと,裁判所から補正命令を受けます(補正命令を受けても,なお適正な補正が行われないと,訴えそのものが却下されます。)。訴状に記載すべき事項として重要なものは,「請求の趣旨」及び「請求の原因」です(次回及び次々回に取り上げます。)。


第16回 : 「移送」(4月13日付掲載)
 事件について審理すべき裁判所を,ある裁判所から別の裁判所に移すことを言います。移送がなされるのは,通常,管轄の誤った裁判所に訴えが提起された場合と,それ以外の特別な理由がある場合です。後者の特別な理由としては,例えば,訴えの提起された裁判所で審理をしたのでは,一方当事者(通常は被告です。)に著しい損害の生じるおそれがあるときや,審理手続が著しく遅滞するおそれのあるときなどが挙げられます。移送により,前者の場合は管轄の正しい裁判所で,後者の場合は管轄のあるより適正な別の裁判所で審理されることになります。
 なお,移送は,当事者から申立てにより行われる場合と,裁判所の職権により行われる場合とがあります。


第15回 : 「事物管轄」(4月11日付掲載)
 民事事件を審理すべき裁判所は,原則として,訴額が140万円以下の場合には簡易裁判所,訴額が140万円を超える場合は地方裁判所です。
 訴額とは,訴えによって原告の得る利益を言い,一番簡明な金銭の支払を求める事件であれば,通常,その支払を求める金額=訴額です(その他の類型の事件についても,訴額を算定する方法が整っています。)。
 前回及び今回の土地管轄及び事物管轄の各基準に従って,通常,原告が訴訟を提起すべき裁判所が定まることになります。万が一,原告が管轄の誤った裁判所に訴訟を提起した場合は,次回に説明する移送の問題となります。


第14回 : 「土地管轄」(4月8日付掲載)
 民事事件を審理すべき裁判所は,原則として被告の住所地にある裁判所です。
 ただし,この原則に対しては,多数の例外が認められています。そのうち,実務でもよく現れる重要な例外としては,金銭債務の支払を求める事件(=原告の住所地),不法行為による損害賠償を求める事件(=不法行為地),不動産に関する事件(=不動産の所在地)などがあります。
 なお,例外と言いましても,原則を排除するものではありませんので,例えば,金銭債務の支払を求める事件であれば,被告及び原告のいずれの住所地にある裁判所でも大丈夫です(訴えを起こす際に原告が選択することになります。)。


第13回 : 「管轄(民事)」(4月6日付掲載)
 ある民事事件について,これを審理すべき裁判所はどの地方にあるどの種類の裁判所であるかという問題です(なお,刑事事件については,民事事件と異なりますので,ここでは対象外です。)。
 管轄は,「どの地方の裁判所か」という点に関わる土地管轄と,「どの種類の裁判所か」という点に関わる事物管轄の2点が重要で,民事訴訟法等で定められています(次回及び次々回に取り上げます。)。ただし,第一審の裁判所に限っては,原則として,当事者が合意によって任意に定めることも可能です。


第12回 : 「当事者」(4月4日付掲載)
 裁判上の手続の主体となるべき者を言います。民事事件であれば,原則として,訴えを起こした原告と訴えを受けた被告であり,また,刑事事件であれば,犯人の処罰を求めて起訴した検察官と犯人として起訴された被告人(+弁護人)です。
 なお,民事事件でも,前々回の保全事件については,原告にあたる者を債権者,被告にあたる者を債務者とそれぞれ呼称します。


第11回 : 「合議事件」(4月1日付掲載)
 事件を審理する裁判所(受訴裁判所)は,通常,3人の裁判官で構成される場合と,1人の裁判官で構成される場合とがあり,前者を合議事件,後者を単独事件と言います。
 刑事裁判の事件は,一定の重大な犯罪については法律上当然に合議事件となり(法定合議),また,それ以外の犯罪でも,事案等に応じて裁判所の判断で合議事件になる(裁定合議)ことがあります。これに対し,民事裁判の事件は,原則として単独事件であり,ただ,事案等に応じて裁判所の判断で合議事件になることがあります。


第10回 : 「保全事件」(3月30日付掲載)
 訴訟において将来勝訴判決を得たときにこれを実効あらしめるため,訴訟の提起に先だって,あるいは訴訟と並行してとられる手続を言います。性格的には,仮差押えの手続と仮処分の手続があり,いずれも訴訟手続に比べて簡易迅速な手続ですが,「仮」という言葉からも自ずと明らかなように,保全事件において示される裁判所の判断(決定)は,暫定的なものであり,最終的には,訴訟事件において決着の図られることが予定されています。
 保全事件と訴訟事件とでは,裁判所の判断の前提となる証拠資料の範囲が必ずしも同一とは限らない(通常,保全事件の方が狭いです。)ので,保全事件における裁判所の結論と訴訟事件におけるそれとが異なることも,手続の構造上,あり得ます。


第9回 : 「裁判」(3月28日付掲載)
 社会生活で裁判という言葉が使われる場合,ときに,訴え等の提起から判決等の結論に至るまでの過程全体を指すこともあります(−むしろ,その方が多いでしょうか−)が,法律用語としての裁判は,そのうちの最後である,裁判所の結論のみを指すこともあります。
 そのような意味の裁判には,判決・決定及び命令という性格の異なる3種類のものが含まれています。このうち,判決は,口頭弁論と呼ばれる最も厳格な手続を経た上でなされる裁判所の判断を言い,一方,決定及び命令は,原則として,口頭弁論以外の手続を経た上でなされる裁判所の判断を言い,その判断主体が裁判所のときは決定,裁判官であるときは命令となります。ただし,実務では,決定と命令は,必ずしも厳格に区別されていない面もないではないです。
 先頃社会の耳目を集めた某仮処分事件における裁判所の判断が,判決ではなく決定と呼ばれているのは,口頭弁論という手続を経てなされたものではないからです。


第8回 : 「刑法」(3月25日付掲載)
 犯罪とこれに対する刑罰や刑罰を科する手続等を定める法律をいい,通常は,「刑法」という名前の法律,すなわち,刑法典を指しますが,広い意味では,刑法典以外の諸法令も含めて考えられます。
 普段の社会生活では,少なくとも,裁かれる側の立場でお世話になってはならない法律です。
 なお,刑法は,最近,かなり大きな改正がなされました。


第7回 : 「民法」(3月23日付掲載)
 大雑把には,個人と個人,個人と会社,会社と会社というように,私人間の法律関係等を規律する法律をいい,通常は,「民法」という名前の法律,すなわち,民法典を指しますが,広い意味では,民法典以外の諸法令も含めて考えられます。
 普段の社会生活で,表に出てくる機会は少ないですが,通常,一番お世話になっている法律は,この民法です。


第6回 : 「衆議院の優越」(3月21日付掲載)
 国会は,衆議院と参議院の両院から構成されますが,その議決の効力の点では,憲法上,衆議院に優越的な地位が認められています。例えば,予算案については,衆議院で可決すれば,参議院で否決しても,最終的には衆議院の可決に従って成立し,また,法律案については,衆議院で可決し,参議院で否決しても,衆議院が3分の2以上の多数で再度可決すれば,成立します。
 このように,衆議院の議決が優越する理由は,衆議院は,議員の任期が参議院議員よりも短く,また,解散制度があるなど,参議院よりも制度的に民意をより強く反映することが保証されているためです。


第5回 : 「規則」(3月18日付掲載)
 最高裁判所と(国会の)両議院(衆議院及び参議院)には,憲法上,内部規律等を定めるための規則制定権が認められています。三権の頂点に立つ最高裁判所や両議院の自治自律権の一環です。
 このうち,衆議院及び参議院の定める規則がその効力において法律に劣後することは,法理論上明らかです。上記規則は,各議院の一の可決のみで成立するのに対し,法律の成立には両議院の双方の可決が必要だからです。これに対し,最高裁判所の定める規則の効力と法律のそれとの優劣関係については,学説上争いがありますが,一般的には,法律が優先すると解されています。


第4回 : 「法律」(3月16日付掲載)
 厳密な定義としての法律は,立法府である国会の議決により成立する成文法を指しますが,社会で一般に使われる場合には,必ずしもこれに限られず,広く他の組織・機関の定める成文法も含めて使用されることが少なくないと思います。厳密な定義としての法律以外の重要な成文法としては,内閣の定める政令,最高裁判所や両議院の定める規則,地方公共団体の定める条例などがあります。前々回の第2回に登場する「法律」の用語も,この広い意味での法律を指しています。
 厳密な定義としての法律は,憲法に次ぐ優越的な地位にあり,その他の成文法は,憲法には勿論のこと,この法律にも違反することはできません(ただし,この法律と最高裁判所の定める規則との優劣関係については,学説上,議論があります。)。


第3回 : 「裁判所」(3月14日付掲載)
 司法権を行使する国家機関(司法府)で,最高裁判所を頂点とし,高等裁判所(全国8庁),地方裁判所(全国50庁)のほか,家庭裁判所(全国50庁),簡易裁判所(全国438庁)があります。
 日本の裁判制度は,原則として,三審制をとっており,1つの事件について3回裁判所の審理判断を受ける機会が保証されています。


第2回 : 「司法権」(3月11日付掲載)
 立法権及び行政権とともに三権分立の一をなす国家権力で,具体的な紛争に法律を適用してこれを解決し,あるいは,法律が憲法に違反するかどうかを審査する(違憲立法審査権)こと等をその内実とします。
 司法権は,法律を適用して紛争を解決することを本質としますので,宗教論争や学術論争,芸術論争などで,法律を適用しても解決できない紛争の類いは,その対象外となります。また,司法権は,既存の法律の枠内で発動するという本質的限界がありますので,その枠を超える新たな問題が生じた場合には,立法権や行政権の守備範囲となります。


第1回 : 「六法」(2005年3月9日付掲載)
 俗に「六法」とは,憲法,民法,刑法,商法,民事訴訟法及び刑事訴訟法を指します。いずれも,日本の法体系・裁判制度を根幹から支える極めて重要な法律です。
 もっとも,実際の訴訟で憲法の条文が登場することは極めて稀です。